J-CASTがオリエンタルランド広報のコメントを掲載しています。
LINK: 東京ディズニーリゾートの名物曲 「ジッパ・ディー・ドゥー・ダー」が消える?: J-CAST トレンド【全文表示】
ディズニーリゾートラインの駅BGMから、映画『南部の唄』、そしてアトラクション『スプラッシュ・マウンテン』で利用されている楽曲『Zip-a-Dee-Doo-Dah』がカットされているのが話題になっていました。それに対して問い合わせたJ-CASTがこの件を記事にしています。オリエンタルランド広報からは下記のコメントが出ています。
変更理由については「ディズニーテーマパークにおいては、多様性を反映することですべてのゲストがより気持ちよくお過ごしいただくことが重要であると考えており、今回の変更はその一環です」と説明した。
Opinion: From the “D”post
J-CAST優秀。ひとまず上記におけるオリエンタルランドの述べる「多様性」を補足します。
本件は、スプラッシュ・マウンテンが映画『南部の唄』をルーツにしていることに起因します。『南部の唄』はディズニーが実写とアニメを融合させた初期の作品で、1946年に公開されました。原作は『リーマスおじさん(Uncle Remus)』シリーズで、映画はリーマスおじさんの語るおとぎ話部分を、ブレア・ラビット、ブレア・ベア、ブレア・フォックスが登場するアニメとして表現しています。
問題は、その実写部分において、黒人のリーマスおじさんの表現が、当時の南部の黒人の置かれた立場とは大きく異なり、奴隷としての立場ではなく白人と対等に暮らすあり得ない表現がされていることが、全米黒人地位向上協会(NAACP)などから指摘されたという点にあります。これに関しては映画評論家の町山智浩氏が書籍『最も危険なアメリカ映画』にて触れています。こちらもぜひ参照してください。
まあ『南部の唄』っていう作品は日本ではほとんど見れない状態になっていて。誤解が非常にあるんじゃないかと。たとえば「(描かれている内容は)大した差別じゃないんだ」とかね、そういったことはよくあることで。見てない人が多いので、その検証はできない状態になっていますから、ここでちょっと話しておこうと思ったんですね。
まあ「ポリコレで……」とか、そういうことを言う人が出てくると困るので。
町山智浩 ディズニー映画『南部の唄』の問題点を語る
LINK: 町山智浩 ディズニー映画『南部の唄』の問題点を語る
LINK: 【期間限定公開】 なぜ「スプラッシュマウンテン」はリニューアルすることになったのか|集英社文庫編集部|note
この問題があり、アメリカでは『南部の唄』は現在でもVHSを含めソフトウェアリリースがされていません。日本ではVHS、LDなどでリリースされており、本国のマニアも買いあさったと言われています。ただ、1986年にアメリカでリリースされたシング・アロング・ソングシリーズ『Zip-A-Dee-Doo-Dah』ではタイトルにもなっているその曲のシーンそのものが収録されており、この時代においては楽曲のみであれば問題がなかったと認識していることが分かります。
それ以後も、『南部の唄』リリースは株主総会での頻出質問となります。しかし、その都度にリリースは不可能であるというコメントが出ていますし、アニバーサリーとなるような年でも特に何もなく過ぎています。
そして時代が動き、『Black Lives Matter』運動や多様性に対する理解が進んだことなどで、ディズニーはその考え方をかなり進め、ディズニーが指針とする方向も明確になってきました。特に表に出てきているのは、ディズニー社全体で進めている『reimaginetomorrow』(2021年)や『Stories Matter』(2020年)。特にStories Matterは、これまでディズニーが作り出してきたストーリーの中に、現在では不適切な表現となる部分があることをディズニー自身が認め、アドバイザリとして作品への注記をまとめて公開しているというものです。動画も公開されており、これ自身が非常に強いメッセージとなっています。
実はDisney+においても、『ダンボ』や『ピーター・パン』、『おしゃれキャット』などは、作品の前にこのページを見るように指示があります。そしてこれらの作品は、不適切なシーンが含まれることにより子供向けのプロファイルではそもそも見られないようになっています。ディズニーはそこまで配慮するようになりました。余談ですが、この影響でDisney+ヨーロッパ版ではダンボのカラスのシーン(ジム・クロウのポーズをする)がカットされています。

しかし、『Stories Matter』においても、南部の唄は触れられていないことに注目です。それほどに、ディズニーは南部の唄を特別視しており、注記程度ではカバーできないと考えているのです。
世界のパークから『南部の唄』要素が消える
パークでも大きく動いています。特にパークにおいては、長年重要とされてきた『SCSE』がアップデートされ、その中央に『Inclusion』(インクルージョン)が追加されました。
これは本家ディズニーのテーマパーク、直営テーマパークだけでなく、ライセンス供与により東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドも同様に5つのキーが設定されていることに注目です。
インクルージョンについて、下記のように日本語で解説されています。
【Inclusion(インクルージョン)】
さまざまな考え方や多様な人たちを歓迎し、尊重すること。すべての鍵の中心にあり、他の4つの鍵のどれにも深く関わる。
この考え方を前提とすると、パークにおける南部の唄要素もインクルージョンに反することが分かるのではないでしょうか。これに従い、2022年ごろから、各地で『Zip-a-Dee-Doo-Dah』がカットされはじめています。
これ以外にも記事にはしていませんが、マジック・キングダムのパレード『Disney Festival of Fantasy Parade』からも楽曲が削除されていたり、2022年に復活したハロウィーンのパレード『Mickey’s Boo-To-You Halloween Parade』からブレア・ラビットたちがカットされているなど、わりと明確に要素を排除しています。下記記事にあるように、ダンボにおける問題シーンで使われている楽曲『When I See An Elephant Fly』(もし象が空を飛べたら)もカットされました。

これを踏まえての、おそらく東京ディズニーリゾートで最初のカットが、ディズニーリゾートラインにおけるBGMとしての『ジッパ・ディー・ドゥー・ダー』です。オリエンタルランド広報のコメントを考えると、今後他の場所(特に舞浜駅の標準発車メロディ)における同楽曲も徐々に置き換えられていくのではないかと思います。
もはやこの楽曲、および映画『南部の唄』が差別的なのかという点に関しては問題の是非を問うステージではなく、ディズニーは多様性やSCISEを鑑み、本作品に対する評価は完了しているという状態にあります。なのでそこを論点とするのではなく、ディズニーの判断を尊重するしかありません。既に『スプラッシュ・マウンテン』のテーマ変更は決定事項であり、USパークにおいては2024年後半のオープンに向け、その前の時点でクローズを明確にしています。なお、この『スプラッシュ・マウンテン』ができたいきさつについては、イマジニアのトニー・バクスター自身が語る映像が残されています。ディズニープラス『イマジニアリング』第3話の17分40秒あたりをぜひチェックしてください。
日本においてはまだ明確なコメントはありませんが、このような経緯がある以上、『スプラッシュ・マウンテン』を閉鎖するとしても大々的なイベントを行うとは思えず、ひっそりとフェードアウトすることはほぼ確実でしょう。とはいえ、私たちにとっても重要なアトラクションの一つなので、それとなく何らかの特別なことをしたり、特別なグッズを出したりくらいはするのではないでしょうか。
かつてボブ・チェイペックは「ウォルトは、彼が作り出したパークを博物館として、来園した人にディズニーの歴史を見せるために作ったわけではない。パークは時代とともに、ゲストともに進化する生き物なのだ」と述べています。伝統を大事に壊しつつ作られる、新しい作品を楽しみにしたいと思います。