年間パスポート利用者はオリエンタルランドの客単価向上にどう寄与していたか?(update)

いろいろ調べたメモを。間違ってたらぜひご指摘ください。

LINK: IR資料室 | 株主・投資家の皆様へ | 株式会社オリエンタルランド

オリエンタルランドは2021年1月28日、2021年3月期第3四半期決算を発表します。2020年10~12月期の決算で、これは運営が再開したものの、全期間においてチケットは事前予約制、年間パスポート利用者は抽選でのみ(無料で)入園が可能だったという状況での運営でした。また、10月23日からは年間パスポートの払い戻しも行っています。

注目は客単価推移(追記あり)

まもなく発表される四半期決算、個人的には客単価の推移に注目しています。「これまで年間パスポート利用者がどう行動していたか」が端的に分かるからです。

特に2020年10〜12月の3カ月間は、非常に限られたキャパシティ(再開当初は1万5000人)のなかで、オリエンタルランドが工夫したともいえます。一方、年間パスポートはいったんその運用を止め、“無料で”抽選当選者を入園させています。

と、その前に、これまでの客単価推移を見ておきましょう。下記はオリエンタルランドの「ファクトブック2020」ゲスト1人当たり売上高からの引用です。

「ファクトブック2020」ゲスト1人当たり売上高

そして、これが最新の(2020年7〜9月期 2020年上半期(4~9月))ゲスト1人当たり売上高です。

http://www.olc.co.jp/ja/ir/latest/main/00/teaserItems2/00/linkList/01/link/sp2021-02.pdf

これだけで結論が出てしまっているのですが、非常に入園者数が少ないという統計上のブレはあるものの、チケット収入におけるゲスト一人あたりの売上高は前年同期比で19.5%もあがっています。オリエンタルランドはこの急激な上昇幅を「チケット価格改定による増」としていますが、2020年4月に行われた価格改定は大人の1デーチケットが7500円から8200円となったというもので、その比率は約9%の値上げ。ところがチケット収入は19.5%の増となっているわけです。ちなみに消費税増税以外のチケット価格改定を行ったのは2016年。この時は500円の値上げ(7%増)で客単価のチケット収入分は200円程度しか上昇していないので、今回の1026円増というのがどれだけ大きかったかが分かるはずです。

この差はどこから出ているのでしょうか。当たり前といえば当たり前ですが、年間パスポート利用者がこの期間入園できなかったことが大きく起因しているはずです。オリエンタルランドも決算資料のなかで控えめに「入園券種の限定による一時的な増」としていますが、より具体的に書けば年間パスポートを入園させなかったことが、この増加の要因だということに当然気が付いています(IR文学的に直接書いてないけど)。実はこの資料で最も面白いのはここでした。

なお、オリエンタルランドが2020年10月に公開している下半期予想に関しても、チケット収入は前年同期比に比べ高くなるとオリエンタルランドは予想しています。

http://www.olc.co.jp/ja/ir/latest/main/00/teaserItems2/00/linkList/01/link/sp2021-02.pdf

この段階で年間パスポートの払い戻しを発表しているので、この傾向が変わらないことは理解しているはず。ただ物販は大幅下げ、レストランは上げとしている点は2回目の緊急事態宣言で変化が出てくるのではないかと、個人的には思っています。

ということで結論は“年間パスポート利用者はチケット収入において一人あたりの売上高を下げていた”です。

追記:2021年1月27日

こちら、ご指摘いただきました。上記で当初7~9月としていたチケット売上高ですが、厳密には上半期、つまり4〜9月のものであるという認識が正しいです。問題はそこに「年間パスポートの売上」が含まれているかという点ですが、決算補足資料上は4〜6月期、つまりすべての日において臨時休園していた期間においてもアトラクション・ショー売上が計上されているため、おそらく年間パスポート売上を四半期ごとに按分して計上していると考えるのが妥当なようですね。

そのため、上記の19.5%もの増加は、休園時でも分割された売上として「年間パスポート利用者の支払額」が含まれていると考えるのが正しいです。その結果、4~6月期は入園者がゼロでも客単価が発生していた、と見ることができるでしょう。

ただし、この「ゲスト一人あたりのチケット売上高」というのと「アトラクション・ショー売上」の関係性はよく分からず、オリエンタルランドの計算式があるはず(ゲスト一人あたりの売上高と入園者数を掛け合わせても比率が合わない)で、それが分からない以上、この資料から読み取るよりも年間パスポートプログラムの影響が発生しない翌年度に数値を見るしかない、という結論です。

(追記終わり)

年間パスポートが寄与していた経営指標とは

問題はやはり、年間パスポートはオリエンタルランドにとってメリットがあるのか?という点です。

そこで考えたいのは、オリエンタルランドの中期経営計画でしょう。2014年度の中期経営計画で発表された「2023ありたい姿」の戦略をもう一度チェックしてみましょう。2013年の決算資料です。

LINK: 決算説明会2013 | 決算説明会 | IR資料室 | 株主・投資家の皆様へ | 株式会社オリエンタルランド

この時、当時の入園者数2700〜2800万人から、「2023年までに3000万人レベル」にするという目標が立てられています。

ところが、2023年を待つことなく、3000万人は2013年度で達成できてしまいます。その結果、2023ありたい姿の目標を前倒し、1Q(イースター)、4Q(アナとエルサのフローズン・ファンタジー)の強化を行い、入園者数の平準化を狙うとともに、戦略として「テーマパーク価値向上」「新規プロダクト導入によるゲストの満足度向上」を挙げています。

http://www.olc.co.jp/ja/ir/library/presentations/2015/main/02/teaserItems1/00/tableContents/05/multiFileUpload5_0/link/sp2016-04.pdf

LINK: 決算説明会2015 | 決算説明会 | IR資料室 | 株主・投資家の皆様へ | 株式会社オリエンタルランド

http://www.olc.co.jp/ja/ir/library/presentations/2016/main/02/teaserItems1/00/tableContents/05/multiFileUpload5_0/link/sp2017-04.pdf

そして現在の中期経営計画では「高い満足度を伴ったパーク体験を提供できている状態とする」という目標が2017年時点で掲げられています。

http://www.olc.co.jp/ja/ir/library/presentations/2017/main/02/teaserItems1/00/tableContents/05/multiFileUpload5_0/link/sp2018-04.pdf

ここからも分かるように、2017年10月時点で既に入園者数の向上は目標としていないわけです。ここがポイントです。

年間パスポートの企業側のメリットとは

さて、年間パスポートの企業側のメリットを考えてみましょう。これは入園者増につながる施策と考えられるでしょう。ただし、それはパークのキャパシティに余裕がある前提で、ということになります。

2012年までは年が明けると閑散期が来ていたことからも分かるように、パークのキャパシティはまだ余裕がありました。入園制限もめずらしく、夏休みのお盆シーズンくらいしかなかったような記憶があります。

しかし、SNSの台頭からか年間パスポートを購入する層の裾野が広がり、いまではステイタスにすらならないほどの普及率。徐々にキャパシティが狭まったことに加え、新エリア増設による一時的なキャパシティ減、そしてオリエンタルランドが戦略的に閑散期にスペシャルイベントを行った結果、年間を通して入園者数が平準化した上に、あのオリエンタルランドが読み違えるほどに入園者数が増えてしまいました。

これまでであれば、パーク運営の指標は「入園者数」でした。その時にはある程度の利益を切ってでも入園者数を確保する施策が生きてきます。これこそが「年間パスポート」でしょう。ところが、早々に入園者数目標をクリアしてしまったので、次は「高い満足度を伴ったパーク」と目標を切り替えました。これは入園者数が下がったとしても、満足度を考える方向にかじを切ったと考えて良いでしょう。問題はその満足度をどう測るかという点です。

個人的には、これを数値で測るにはアンケートのような定性的なものではなく、財務上のデータとしてはっきりと出てくる「客単価」をKPIにしているのではないかと考えています。

年間パスポート利用者はOLCに金を落としていなかったのか?

“年間パスポート利用者はチケット収入において一人あたりの売上高を下げていた”と書きましたが、これはよく読めばごくごく当たり前のことしか言ってません。だって年間パスポートは正規のチケットよりもお得だからみんな買うわけであって、年間50回以上入園するという方も多いわけです。通常の1デーチケットを買う人と比べられるわけがなく、どう考えても「平均を下げる側」にしかなりえません(年パスで年間5回くらいしか行かない人だけが石を投げてください)。

かといって、それは「年パス民がパークに金を落とさない」とイコールではありません。より正しくいうならば、“決算資料上の数値として”年間パスポート利用者はチケット収入において一人あたりの売上高を下げていたと言うべきでしょう。

自己認識と実際の数値の差が発生するのは「年パス民の方が1デーよりたくさんスペシャルイベントのグッズを買っている」という認識からかもしれません。ただこれも客単価計算に関していえば、年間の総購入額を“年パスで入園している回数”で割ったものを、1デーチケットで入園している人と比較することになるので、平均単価を押し上げる要因になる人は極々少数なのではないかと思います。年パス民がパークに入るごとに毎回4000円近くグッズを買ってます?スペプラ待ったりしてない?

年間パスポート利用者はその人一人を見れば、年間でかなりの額をグッズ購入+年間パスポート購入で落としているのは間違いありません。しかし、財務データ上は特定個人ではなくあくまで総売上を総入園者数で割ることになるので、総入園者数を押し上げる年間パスポート利用者はグッズ/レストランを含む全体の客単価にとっても、おそらく引き下げ要因になってしまっているはずです。

とはいえ、もう年間パスポートは(一時的ながら)存在せず、全員が通常の1デーチケットを買う側に回りました。もう年パスが1デーにマウントしかけることもない訳ですので、それはそれで良いことなのでは……。まもなく発表される四半期決算においてチケットの収入が現四半期とあまり変わらなかった場合、オリエンタルランドが年間パスポートプログラムを停止したということは、自らの中期経営計画に沿った判断であり、おそらく正しいのではないかと思います。

今後はみな、1ゲストとして、問題のある運営があればガンガン指摘すればいいと思います。個人的にはおおむね満足してはいるものの、高い満足度を伴ったパーク体験のボクたちなりのいい方、“もうちょっとだけ気持ちよくお金を使いたくなる施策”は必要じゃないかなーと思っています。まーでもマニアの声は聞かなくていいんじゃないかな。うん。

Opinion: From the “D”post

なお、「第2四半期20年10月発表テレフォンコンファレンス」の電話質疑応答ログに、こんなコメントがありました。オリエンタルランドは「ゲストの新たな楽しみ方を確認することができた」とコメントしているのが非常に印象的。パレードがなくてもショーがなくてもグリーティングがなくてもゲストは喜んでいたのです。これまでオリエンタルランドはマニア向け運営をする傾向が見えて非常に危険だと思っていたのですが、なにかに気付かれてしまわれたようで安心しました。すべてのジャンルはマニアがつぶす(主に運営側の要因で)。

Q3) 新型コロナウイルス感染症流行を受けて、ゲストのニーズや行動に変化はあったのか。

A3) 入園者数を制限した運営をする中で、ゲストの新たな楽しみ方を確認することができたこと は収穫と言える。飲食施設ではゆったりと食事をお楽しみいただき、商品店舗では展示さ れた商品を見てアプリで購入いただくなど、ゲストが求めることを想像しながら新しいことに 挑戦しており、試行錯誤を続けていきたい。

http://www.olc.co.jp/ja/ir/library/presentations/main/02/teaserItems1/00/tableContents/07/multiFileUpload3_1/link/qa2021-02.pdf

そういえば以前株主総会で「年間パスポート利用者の購入動向などを調べていないのか?」に対する回答は端的に言えば「調べていない」というものでした。当時自分はオリエンタルランドなんて適当なんだ、と思っていたところです。

が、自分の中では確信に近いのですが、多分オリエンタルランドは経験上分かっていて調べなかったのではないかと思っています。つまり年間パスポート利用者単体の客単価を算出するとどう考えても廃止が妥当と株主に判断されると考えていたのではないか……と怖い結論に至りました。

知らんけど。

追記

決算発表に関しては下記をどうぞ。

そしてコメントいただいていたHarryさん(@THETA210)の記事もあわせてどうぞ。

LINK: オリエンタルランドの決算発表!7-9月期と10-12月期に明確な差が!! | 人生で必要な教養はすべてディズニーが教えてくれた!

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