「究極のパークガイド」を知りたい? ならばやることは決まりだ

“お前もオタクなら好きなものをべた褒めする長文を書きやがれ”に従い。

TL;DR(Too Long, Didn’t Read. 長いから読まない人向け結論)

ディズニーにおける三大難問

長くディズニーを見ていると、誰もが難問にぶつかりますよね。私も皆さんと同じように3つくらい難問にぶつかっていましたが、徐々にそれらがクリアになってきたという実感があります。これはさまざまなコンテンツ体験が積み重なって結果なのかなあ、とも思います。

まずは「夢かなう」問題。これはディズニーに限らず「夢は必ずかなう」という無責任に見える表現に、ディズニーはどうやって対峙しているのかというもの。これはわりと早い段階で方向が見えるようになりました。

次に「ディズニープリンセスとは何か」問題。これも最近になってディズニーがはっきりとその道筋を示すようになり、受け身の女性→行動する女性→自らを定義する存在、というのがきれいに見えるようになりました。

そして残るは、未解決でその糸口すら見えなかった問題だけ。それは「究極のディズニーパークガイドとは何か」問題。とうとう、その糸口が見えました。

1993年放映「ALL ABOUT DISNEY テーマパーク編」の衝撃

そもそも大前提として、テーマパークはすべて「事前知識なしで100%楽しめる」べきです。特にディズニーのテーマパークは、国内、海外ともになんの事前知識がなくても、絶対に楽しい体験になるはず。今回問題としているのは「そんなことを言ったとしても、本当はもっと楽しめる知識があるんでしょ?」に対する答えがあるかどうかという命題です(実際、先にお話をした講談社ディズニーファン連載でも開口一番「何もガイド本見る必要ないと思います」といったら話が終わっちゃうと指摘されたw)。以降、“100%が1億%になる、マニアが満足するパークガイドとは?”というお話しだと思ってください。

過去何度か言及しているのですが、WOWOWで放映されたオリジナル番組に『ALL ABOUT DISNEY テーマパーク編』があります。まだディズニー・アニマルキングダムが存在しないころのウォルト・ディズニー・ワールドを紹介する番組で、藤田朋子さんが出演する(いまではまず見ることのない)ドラマ仕立てのパークガイドです。

昨今の海外ディズニーパーク紹介番組は、ほぼテンプレ構成になってしまっていることが皆さんもお分かりかと思います。タレントを使い、ゲートをくぐるところを映し、アニマルキングダムロッジに宿泊しホテル内の動物に驚き、キリマンジャロ・サファリを見てスケールに驚き、マジックキングダムでミッキーに会い、パレードと花火を見て締め。以上。

WOWOW『ALL ABOUT DISNEY テーマパーク編』(1993年4月11日放映/制作:クリエイティブネクサス)

ではこの『ALL ABOUT DISNEY』ではどうでしょうか。わずか60分弱の枠でありながら、その構成はいま見ても驚きのもの。舞台はウォルト・ディズニー・ワールド、藤田朋子が演じる主人公の記者はディズニーを取材対象としか思っていない大人(当時はまだディズニー=子供向けというイメージ)。一緒に行動するのは、雑誌企画に当選した小学生の女の子。主人公は分厚いガイドブックを読みながら女の子にうんちくを語るのですが、そんなのは意に介さず、女の子は記者がついたウソ——「魔法の夜のパーティー」に興味津々。ストーリーはその魔法の夜のパーティーに向け進んでいきます。

冒頭、パークガイドとしていつもの「ウォルト・ディズニー・ワールドの場所と広さ」「キャッスルに向かう道に施された強制遠近法」「ジャングル・クルーズにある本物の植物、機械の動物」といった流れでさらりとパークを紹介した後は、ほとんどウォルト・ディズニー・ワールドの話が消え、なぜウォルト・ディズニーはこのようなパークを作ったのかという点にフォーカスを当てます。

開始10分後にはニューヨーク世界博(イッツ・ア・スモールワールド、オーディオアニマトロニクス)を語り、ディズニーワールド計画に移り、いきなりインタビュー相手にあのローリー・クランプを登場させます。“ブルー・スカイ”なアイデアを持ち寄り、優れたストーリーを作り出すことが重要であると若きエディ・ソットーに語らせ、本物を作り出すことをトニー・バクスターに語らせます。ウォルトが購入した小さな鳥の模型の話をアーカイブスのデイブ・スミスが語ると自然とオーディオアニマトロニクスの成り立ちにつながり、表現者ウォルト・ディズニーの考えが極まったタイミングで彼の最後のプロジェクトであるエプコット計画の話に流れます。

驚くべきことに、この番組ではそのほとんどが「ディズニーテーマパークはなぜ作られたのか」ということに費やされており、ウォルト・ディズニー・ワールドという表層的なお話しはほぼスルーされているのです。もちろん、現地の情報もちょこちょこと入るのですがそれは本質ではなく、パークを作り出した人たち、“イマジニア”が中心になっているのです。

今となっては、この構成は“ボクたちが本当に欲しかったもの”を正確に射抜いていると思っています。本放送は1993年4月11日放映。いまから27年も前のものですが、いま見ても全く古くささを感じず、むしろ新鮮な驚きを与える内容です。なんといっても冒頭主人公が持っている分厚いガイドブックは「邪魔なもの」として途中から部屋に置かれるもの扱いになっているのがものすごい。

知りたいこと、知るべきことは一次情報ともいえるイマジニア本人の口から発せられており、間にタレントの感情が入ることなくダイレクトに伝わってきます(超面白いのはその中でも番組オリジナルの魔法の夜のパーティーの件をローリー・クランプ御大にも「きっとパーティーはあるよ、ここは魔法の国だからね」と語らせてること)。これこそ、いまのパーク特集番組に足りないポイントだと思っています。

そして2019年。この番組に匹敵する超優良コンテンツが登場しました。それがディズニープラスオリジナル番組『The Imagineering Story』(邦題:イマジニアリング)です。

イマジニアが見た約60年のディズニー史

かつてdpost.jpでも、ディズニー史を学ぶための本を紹介したことがありました。

なかには、本を読むという時間をなかなか取れないという人もいるでしょう。そんな人の“ディズニーを学ぶ最初の一歩”として、非常に優れたコンテンツがこの『The Imagineering Story』です。

イマジニアリング~夢を形にする人々|予告編|6月11日 配信開始

この作品はレスリー・アイワークス(ミッキーマウスを生み出したアニメーター、アブ・アイワークスの孫)が監督したドキュメンタリーで、約60分のエピソードが6つ公開されています。

  1. The Happiest Place on Earth(世界一幸せな場所)
  2. What Would Walt Do?(ウォルトならどうするか?)
  3. The Midas Touch(黄金に変える手)
  4. Hit or Miss(当たるか はずすか)
  5. A Carousel of Progress(カルーセル・オブ・プログレス)
  6. To Infinity and Beyond(無限のかなたへ)

カバーする範囲は非常に広く、エピソード1ではウォルト・ディズニーが映画を成功させた後「パーク」にどのように傾倒し、ディズニーランド、および1964年のニューヨーク世界博でなにを成し遂げたのかという点から、イマジニアたちが不遇の時代を経て、上海ディズニーランドやStar Wars: Galaxy’s Edgeなど新しい時代を切り開くまでを、イマジニアの視点からディズニー史を語るという内容です。

Disneyland Is Your Land! Celebrating 60 Years of Magic | Disneyland Park

最近ディズニーを知ったという方は、ディズニーが映画でもパークでも“常勝”している印象を持っているかもしれません。しかし、イマジニアたちはウォルト・ディズニーという集団の中でもかなり異質な存在であることからか、彼らの居場所はその時その時の「トップ」によって大きく揺らぐことが、当事者の振り返りにより鮮明に表現されているのがこのシリーズの特徴です。特に印象として強い先々代CEOのマイケル・アイズナーの姿は、イマジニアにとっては非常に近しい間柄であったこともあり、彼らがアイズナーをとても高く評価していることは意外に見えるかもしれません。これまでのディズニー史はCEOの在任期間カットでの見え方になることが多い(それぞれの伝記本がもとになるため)のですが、CEOが変わるごとにディズニー内部の空気がどう変わってきたかを、非常に端的に学ぶことができるコンテンツです。

そしてこのドキュメンタリーでは、パーク制作の当事者であるイマジニアが、冷静にその成果を表現している点でも興味深いです。ディズニーランドはビジョナリーであるウォルト・ディズニーの指導の下に作られたものですが、彼の死後、計画として残っていたディズニー・ワールド改め“ウォルト・ディズニー・ワールド”、エプコット計画、そしてコピーである東京ディズニーランドを描きつつ、ウォルトのビジョンが枯渇した後に作られた「ディズニー・カリフォルニア・アドベンチャー」「ウォルト・ディズニー・スタジオ・パーク」「香港ディズニーランド」といったプロジェクトを“失敗”と位置付け、しっかり振り返っているのは真摯(しんし)な面が見えました。その直前に、ディズニー・MGMスタジオ(現:ディズニー・ハリウッドスタジオ)やユーロディズニー(現:ディズニーランド・パリ)という、それなりにお金をかけてアイデアを持ち寄って作られたパークは、まさにマイケル・アイズナーとフランク・ウェルズの功績であることも、しっかり紹介されています。

ただし、“イマジニア視点”であることは忘れてはならないでしょう。エピソード5以降、ボブ・アイガー指揮の下に失敗パークをリニューアルしたことで成功に導いたストーリーが紹介されていますが、ディズニー・カリフォルニア・アドベンチャーを再生した重要なエリアである「カーズランド」の立役者、ジョン・ラセターについてはほとんど触れられていません。この点が非常に残念です。あの人のあの情熱なかったらこのエリアできてないよ。

John Lasseter Tests Luigi's Flying Tires at Disney California Adventure Park

ボクたちが本当に見るべきパークガイドとは

当初の話に戻ります。特に日本に限っては、パーク紹介の特番は非常に薄っぺらい内容になっています。確かにTwitterではバズりますけど、その内容は一過性のもの。おそらくその原因は2つ。「表層的なところしか紹介しない」ことと、「タレントの使い方が間違ってる」こと。

まず表層的な面について。あまたあるパーク本やパークガイドが薄っぺらいのは、目に見えて、そこにあるものだけを見ようとしているからだと思います。代表的なのは隠れミッキーやバックグラウンドストーリーなどですね。これを“パーク情報”としてしまうと、事前に“パーク情報”を見て覚えて、現地に行って、「あ、あった」というのだけで終わってしまいます。ある、見る、終了。これってトリビアでしかなくて、せっかくの旅行が単なる「答え合わせ」の旅にしてしまうことになるわけです。あるべきものはそうではないのです。

そしてタレント。最近ではディズニーに詳しいと自称するタレントも増えました。中にはかなりガチな方もいるのは間違いありません。でも、私たちはそのタレントのファンであるというよりも、ディズニーのファンなのです。そのタレントがどう回るか、なにが好きかを通じてディズニーを紹介するというのもコンテンツの一つですが、それはタレントの紹介でありディズニーの紹介そのものではないはずです。ここがわりと混同されているのが現状だと思っています。あるべきものはそうではないのです。

本来あるべきもの、それはディズニーがなにを考えてパークを作ったのかというのを紹介することで、実際に目の前にしたときに「自らが探求できる準備が整っていること」が重要なのではないでしょうか。タレントを起用するとしたら、そのタレントの話を聞くのではなく「一次情報たり得るキーパーソンに、ディズニーに詳しいタレントが聞く」という使い方をすべきなのではないでしょうか。

“その先の深さ”を知るためのコンテンツこそ、究極のディズニーパークガイドになりえるはずです。

一番思い出に残るのは「実体験を伴った驚き」だからこそ

私が『The Imagineering Story』でもっとも心に残ったのは、イマジニアが発したこの言葉です。

過去最高の技術で作り上げて、それを気付かれないようにします。このアトラクションを楽しんだ人が、すごい機械にすごいロボットだった、シミュレータもすごかったと感想を言ったら、失敗です。

イマジニア 先行開発 ジョン・スノディ(John Snoddy):「The Imagineering Story」Ep.5

これは自省するところもあるのですが、世界最高の体験を提供しようと考えるイマジニアが考える「すごい」という点が、もしかしたらいわゆるディズニーマニア/ディズニー中級者/ディズニーガイド執筆者/ディズニーツイッタラーが考えるそれと大きく異なっているような印象を与えるひと言です。イマジニアはゲストが初めて体験したときの驚きが、最高潮になるように必死にアイデアを出し合っています。もしかしたら、それを邪魔するような「ガイド」があったりしないでしょうか。もはやそれは余計な情報であり、ネタばれを超えたスポイラーであるかもしれません。

では、事前情報として手に入れるべきものは?

その答えこそ、イマジニアたちがなにを考えてこの世界を作り出してきたのかを歴史でつづる『The Imagineering Story』なのではないかと考えました。実際に現地に行ったときに、目の前にあるものをすなおに受け取り、それがどのようなものであるか、どのようなストーリーが存在しているかを“自分の心で”見いだせること。これこそが、パークにおける究極の体験です。誰かがしゃべったバックグラウンドストーリー情報なんて捨てちまえ。例えそれがイマジニア発のものだとしても、あなたのイマジネーションにはかなうわけがない。

ここでは、あなたと、あなたのイマジネーションこそが主人公なのだ!

The Imagineering Story | Official Trailer | Disney+

今から見る方はラッキーなことに、エピソードごとに1週間待つ必要もありません。吹き替えも非常に細やかに作られているので、情報をもれなく受けとめるには吹き替え版を推奨します(重要人物は生声+字幕になるという非常に分かってる構成)。長々と書きましたが、ディズニープラスにおける現時点での最重要コンテンツであり、真っ先に見ることをお勧めしたい作品。これを見ておけば、「ディズニー」の世界は必ず拡がるはずです。

A Look Back: Toy Story Mania! | Disneyland Resort
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