トロン初日のILLは20ドル。許容範囲……かしら?(2023/03/20)

【噂】ディズニー史を揺るがすスキャンダルか、それとも単なる怪文書か——AL Lutz騒動の読み方

スタジオ/カンパニー(〜2020年5月)

みんな大好き陰謀論のお時間です。長いけど最後の結論まで読んでから反応してね。

LINK: The [DIS] Influencer – Gary Snyder – Medium

まずは上記の長文を読んでほしいと思います。Gary Snyderなる人物がmediumに投稿した記事によると、2000年初頭よりとあるスキャンダルが秘密裏に行われていたことが告発されています(投稿はこの1記事のみ)。実は東京ディズニーリゾートに関しても、決して無関係ではない事項。主人公はMicechatのコラムニスト、「アル・ラッツ」(AL Lutz)氏。

2019年8月13日、久々にアル・ラッツがコラムを公開する

きっかけとなったのは、米ディズニーファンサイト界の大手、MiceChatに公開された下記のコラムです。

LINK: MiceAge Disneyland Rumor Update – Promising the Moon

この著者は、インターネット黎明期(というかパソコン通信時代以前ふくめ)から大変著名なコラムニストとして影響力の大きい、アル・ラッツです。題材は同氏が噂時代から追いかけていた、スター・ウォーズランドこと「Star Wars:Galaxy’s Edge」に関するお話。西海岸側のイマジニア集団、チーム・ディズニー・アナハイム(TDA)が想定していたエリアの噂も含め、かなり踏み込んだ内容でした。冒頭、同氏はパーキンソン病の治療をしていることも吐露しています。この中ではD23 Expo 2017で公開された1枚のアートと、つい最近公開されたイマジニアの裏側動画を結びつける、興味深い指摘もありました。

イマジニアの思考を学べ——無料コンテンツ「Imagineering in a Box」公開(update)

内容も内容なのですが、それ以上に驚きは久々に登場したアル・ラッツを“暴露”するかのようなmediumの記事です。現段階ではほとんど怪文書に近い内容ですが、実はアル・ラッツはあるタイミングから中の人が入れ替わっていた、という告発が掲載されています。

初期インフルエンサーでもあるアル・ラッツ氏の正体は「ディズニーの中の人」?

むっちゃくちゃ長い記事ですが、大変読みごたえがあります。

LINK: The [DIS] Influencer – Gary Snyder – Medium

ちょうざっくり概説します。2000年初頭にオープンした「ディズニー・カリフォルニア・アドベンチャー」やパリの「ウォルト・ディズニー・スタジオ」および「香港ディズニーランド」というのは、テーマパークの粗製乱造期でした。これはすべて、当時のCEOマイケル・アイズナーの“失点”とされています。

当時ディズニー・カリフォルニア・アドベンチャー開園当初のディズニーランド・リゾートを担当していたジョージ・カログリディス(George Kalogridis 現:ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート社長)は、続く9・11による不振などテーマパーク部門のトラブルに関して、上長であるディズニー最高通信責任者(CCO)だったゼニア・ミュシャ(Zenia Mucha)、当時はまだABCのメンバーだったボブ・アイガーとともに、当時のマイケル・アイズナーの失策を責めるための公開書簡を、ウォルトの甥であるロイ・E・ディズニーが中心となり「SaveDisney.com」にて公開します。

実はそこに、ファンに向けて絶大な支持を持つ、アル・ラッツ氏が関係してきます。ディズニー・カリフォルニア・アドベンチャー開園時に影響力のあるレビューを投稿していたことがきっかけでディズニー内部のジョージ・カログリディスを知り合い、その力を知ったゼニア・ミュシャがSaveDisney.comのコラムに、ディズニーの意向をアル・ラッツ名義で書かせていた——のですが、このMediumのコラムではそれがアル・ラッツ本人ではなく、ディズニー社の中の人間、トロイ・ポーター(Troy C. Porter)氏だというのです。

これはつまり、ファン(ブロガー)の影響力を企業が利用し、トップであるCEOのすげ替えまで行ってしまったということになりかねません。ディズニーはファンあっての娯楽産業であり、ファンの印象というのは重要なもの。CEO後期のマイケル・アイズナーは安価な続編(Cheapquel)を粗製乱造し、テーマパークも安売りしていたことで、ファンはいい印象を持っていません。が、その悪印象が実は著名コラムニストの名前を借り、企業内部で作り出されたものだったとしたら——。

東京ディズニーリゾートも無関係ではない

この話は東京ディズニーリゾートも影響していると私は考えています。もう7年ほど前の話になりますが、皆さんももしかしたらこの話を聞いたことがあるかもしれません。

そろそろ「アメリカ河をつぶしてカーズランドが日本上陸?」にひとこと言っとくか

2012年に(局地的に)東京ディズニーランドの“アメリカ河”をつぶして、そこにディズニー・カリフォルニア・アドベンチャーで大人気となっていた「カーズランド」を作るという噂が登場しました。あまりにも飛躍しすぎた内容に個人的にもあり得ないと思っていたものの、この噂のもとになったコラムニストの名前を見て、可能性がゼロではないと私は思っていました。このコラムの筆者こそ、今回問題になっているアル・ラッツなのです。

MiceChatの著名コラムニスト、AL Lutzのコラムがなかなか面白いです。ひとことで言うと「東京ディズニーランドでキャパシティ的に問題のあるアメリカ河をカーズランドに置き換えるとさらに入園者をキープできる」というものです。個人的な感想を言うと「面白いけど非現実的すぎるだろ」という内容なのですが、その裏にはもうちょっと複雑なお話がありそうです。

LINK: そろそろ「アメリカ河をつぶしてカーズランドが日本上陸?」にひとこと言っとくか

この時期、東京ディズニーリゾートに関して噂が乱発されます。実はこの後、Disney and Moreが上記のコラムを否定し、新ファンタジーランドに近いものを東京ディズニーランドに持ってくるという記事を公開します。

新ファンタジーランドの計画を難しくしているのが「用地問題」。東京ディズニーランドのファンタジーランド近辺は裏手にバックステージが広がるものの、これを簡単に使うことはできません。そうなると、バックステージの施設を別の場所に移動する、隣接するウェスタンランドを利用する、またはグランドサーキット・レースウェイ/トゥーンタウンをクローズし、その用地を使うという必要があります

LINK: 【噂】東京ディズニーランドに新ファンタジーランド計画?残る課題はやはり「用地」

それを受け、東京ディズニーランドに「スター・ウォーズ関連エリア」(のちのStar Wars: Galaxy’s Edge)の噂が登場します。実はこれも、アル・ラッツによるコラムが発信源です。

突然ここにD23 Expo Japanへのコメントがあり、東京ディズニーランドのトゥモローランドについてもなんらかのアップデートが計画されており、「本国同様にあまり活用されていないキャプテンEOを持つ東京のトゥモローランド」と指摘。D23 Expo JapanにはディズニーCEOのボブ・アイガーと、パーク&リゾートのトム・スタッグスが来日することを受け、「“galaxy far, far away”に対するアナウンスがされるかもしれない」としています。

LINK: 【噂】MiceAgeがD23 Expo Japanでの「トゥモローランド改装&スター・ウォーズテーマ追加」発表を示唆?

その結果は皆さんもご存じのはず。

「美女と野獣“魔法のものがたり”」「ベイマックスのハッピーライド」2020年春に登場——東京ディズニーランド新アトラクション名称を発表

アメリカ河を潰して……は、おそらく下記記事のことだったのでしょう。ちなみにこのコラムもアル・ラッツ。コラム公開直後にDisneyland Today公式アカウントがフォローするかのようにコメントしていたのが印象的でした。

ディズニーランド、スター・ウォーズテーマのエリアのために「アメリカ河」「ディズニーランド鉄道」を大きく変える

実は、上記の噂が乱発されたころ、初めてのD23 Expo Japan講演にて、不思議な演目が行われました。パークス公演のなかで(比較的)長い時間をかけて、なぜか「太鼓」のパフォーマンスが行われたというものです。私自身はこのあまりに唐突なパフォーマンス、そしてイベント全体でスター・ウォーズを推していたことから、本来ここで東京ディズニーリゾートにおけるスター・ウォーズ展開が発表されたのかもしれない、と予想していました。つまり、ウォルト・ディズニー社とオリエンタルランド社の意見が対立しており、ディズニー側の代弁者として、Micechatのコラムがアル・ラッツ名義を使ってアピールされたとも取れるわけです。

推論とは、「ディズニー社内部でも、東京ディズニーランド新要素として取り込むのを『スター・ウォーズ』か『新ファンタジーランド』か決めかねている」というもの。先の記事ではウォルト・ディズニー社とオリエンタルランド社の間で案が対立しているのでは、ということを想定しましたが、これでウォルト・ディズニー社側がスター・ウォーズテーマの新要素を推している、という確信を得ました。この2社の対立であるとすると、オリエンタルランドは新ファンタジーランドを推しているのでは、ということになります(全部噂の上に立っている推論、妄想です)。

今回誰もがなんだろ?と疑問に持ったと思うのですが、パーク&リゾートのプレゼン内、スター・ウォーズの話の直後に和太鼓の演奏が入っていました。私もこれは超唐突に思えたのですが、ひょっとしたらその時間、なんらかの大きな発表が行われる可能性があったのでは…と邪推してしまいます(とはいえ、あれだけ本格的な和太鼓演奏者のスケジュールをキープするにはある程度の時間が必要なので、発表があったとしてもかなり前の段階でキャンセルが入っていたとは思いますが)。

LINK: D23 Expo Japan 1日目フォトレポート&雑感

おそらくMicechat=アル・ラッツはディズニー社側の情報を、Disney and Moreはオリエンタルランド側の意向をつかんだ結果ではないかと思っていましたが、上記のmedium記事のようにアル・ラッツが「ディズニーのスポークスマン」扱いだったとすると、その予想は大きく外れていなかった、ということになるでしょう。Micechatのコラム、そしてアル・ラッツという名前を使い、ファンの意識を醸成していたのでは、ということになるかと思います。

で、これほんとなの?

さて、そのアル・ラッツの”中の人”ことトロイ・ポーター。実はMicechat内で「@TP2000」名で何度も登場している、これまた著名アカウントです。コメントも多数行っていて、この騒動でフェードアウト……していると思いきや、真正面から否定コメントをしています(そらそうだ)。あれれれれ

LINK: News – Al Lutz Returns – Update: Page 18 Drama | Page 33 | WDWMAGIC – Unofficial Walt Disney World discussion forums

これ以降、今現在でも普通にコメントに参加していて、雰囲気的にも完全に別人というように私には見えます。

冷静に考えますと、mediumのアル・ラッツ暴露の記述は無茶苦茶長いですが、信ぴょう性があるのかといわれると根拠は何一つありません。陰謀論というより、むしろ「怪文書」レベル。そのため、この記事の公開直後はそれなりにUSブロガー/ライター/ファンが盛り上がっていましたが、今では完全に鎮静化しています。

ということで、「読み物としては面白いね!」くらいのトーンで受け取るべき内容だと思いました。実名バンバン出てくるけど誰でも知ってるメンバーだし。というかこういう怪文書にアル・ラッツ的な著名人を完全ターゲットにしてやる勇気がすごすぎる。これがでて誰が得するの——実は、それこそが今回のポイントだと思います。

周辺で同時に起きたこと、それで得する人は

これが発覚したのはD23 Expo 2019の開催直前。この騒動とほぼ同時期に、いろんなことが起きたのを覚えていますでしょうか。

まず、香港デモを発端とした騒動。実写版ムーランの主演、リウ・イーフェイがこのデモの”警察側”(中国体制側)を支持するとして、ファンの間でこの映画をボイコットすべく「#BoycottMulan」のハッシュタグが盛り上がりました。

LINK: ‘Mulan’ Star Skips D23 Press Amid #BoycottMulan Controversy – Variety

LINK: Hong Kong Protestors Call for Disney Boycott After ‘Mulan’ Star Voices Support for Police Crackdown | Hollywood Reporter

が、その後香港デモを混乱させるべく、中国政府が偽情報をSNSに流していたのではないか、という可能性が出てきています。ツイッターやFacebookが中国政府に近しい関連アカウントを停止したという中で、この#BoycottMulanに関しても、作られた世論だったのではないかとしています。

LINK: Twitter Bans Accounts Used by China Against ‘Mulan’ Boycott, Hong Kong Protestors | Hollywood Reporter

LINK: SNSは政府によるプロパガンダの“戦場”であり続けている──香港のデモを巡る中国の「情報操作」疑惑で見えてきたこと|WIRED.jp

加えて、日本ではあまり話題になっていませんでしたが、ディズニーのテーマパーク部門が不正会計により、売り上げを組織的に水増ししていたという報道がこのタイミングで出てきています。

LINK: Disney whistleblower told SEC the company inflated revenue for years – MarketWatch

さらに「マーベル・シネマティック・ユニバースからスパイダーマンが離脱」なんて話も出てきました。

こういったさまざまな「ディズニー不利」な情報が同時多発的に出てきたというのは、注目に値します。これによってボブ・アイガーCEOはもしかしたら窮地に立たざるを得ないかもしれません。おそらく、それこそがこれらの情報をリークしたものの狙いなのでしょう。今度こそボブ・アイガーも後継者を決めなければならない時期、そこにはおそらく、巨大メディア企業なりの社内政治が動いているに違いありません。

ウォルト・ディズニー、21世紀フォックスを524億ドルで買収へ、ボブ・アイガーCEOは2021年まで続投へ(update)

From the “D” post

ちなみに私、初めて行ったD23 Expo 2011にてアル・ラッツ本人を見かけてますので、実在する人物であることは間違いありません。今回の内容に関しては、私たち読者も“冷静”になる必要があります。上記ムーランボイコットの話もそうですが、いまやSNSで不特定多数(もしくは特定多数)を扇情することは、その裏にだれか得する人間がいる可能性があることを知るべきでしょう。アメリカでは2020年11月に大統領選挙を控えており、おそらくこれに向けてさまざまなプロパガンダが行われるはずです。

参考:プロパガンダの特徴(PwC提供)

これは本当に他人ごとではなく、RTやSNS投稿を通じ、私たち自身がこのプロパガンダに加担してしまうこともあり得るわけです。怪文書が伝えるようにインフルエンサーがそこに加担していたとしても、私たち自身がそれを見抜くことは不可能でしょう。根拠がない噂に対しては、明確は否定は難しいものです。デマを流すよりもデマを否定することのほうが数十倍、数百倍のコストが必要です。ほぼ不可能といっていいでしょう。だからこそ、私たちは情報の選定眼を養い、それができるまでは安易なリツイートは避けるべきなのかもしれません。もちろん、私を含め「誰かが言ってたから信頼できる」などと、信頼を誰かにアウトソースしてはならないと思います。フェイクニュースやディープフェイクなどが当たり前のように存在する時代ですし。

参考:フェイクニュースの特徴(PwC提供)

最近はインフルエンサーが「広告塔」として動くことも多く、それが利益相反の状態にあることも多くなっています(要するにステルスマーケティング)。もちろん個人/組織の活動において、1円も利益を出してはならないというのは完全に間違った認識で、正しくは「利益を得るような記事公開/写真公開をした場合、誰から利益供与されているか」を明記すべし、というのが正しい認識。単に「PR」と書いたからいいのではなく、どこから利益をもらったのかという出所の関係性が重要なのです。万が一この怪文書が事実なのであれば、コラムにおいて「Sponsored By Disney」といった表記があってしかるべき。それがないことが、アル・ラッツのコラムを担保する重要なポイントだったわけですから。

余談ですが、本サイトでも基本的には、金銭授受がなかったとしても取材協力クレジットを入れるようにしています。もちろん、海外取材などは渡航費などの取材協力を受けていますので、クレジットを掲載するのは重要。ただし、現在は広告企画記事は全く受け付けていないため、スポンサーが記事内容に対し修正依頼があっても受け付けていません。お金をもらうよりも編集権のほうが重要。

そういう意味では今回の事件、我々の興味対象が“1社提供”といういびつな構造になっていることを再認識させ、dpost.jpとしては“対象”(ディズニー本体)とはある程度の距離感をもって接しないとダメかもなー、と思いました。別の編集部が存在するねとらぼのライターとしてはまたちょっと微妙な立ち位置になりますけれど。

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