さる2018年4月10日、プレス向けに行われた「ドリーミング・アップ!」演出担当によるセッションが開催されました。その様子のインプレッションは下記の記事でも触れています。

東京ディズニーリゾート35周年「Happiest Celebration!」が終了したこともありますので、パレードはこれからしばらく続くものの、このパレードをどのような意図で作り出していたのか、演出面でのコメントをまとめたいと思います。なお、作り手の意図ですらあなたの想像を縛るものではありません。あなたが感じたものこそが重要だ、ということを念頭にしていただければと。
ドリーム・アップ——夢を見る、夢を描く
今回お話をお伺いしたのは、本パレードにおける演出を担当した有賀美智さんです。

新パレード「ドリーミング・アップ!」演出担当の有賀美智氏
このパレードのコンセプトは、タイトル通り「夢を見る」。ミッキーたちと一緒に、夢を見ようというのがコンセプトです。ドリーム・アップとは夢を見る、夢を描くという意味。そこからタイトルが付けられました。
まず、この35年間でディズニーがゲストにたくさんの夢を届けてきた集大成として「夢」をテーマにしようということが決定しました。しかしそれでは漠然としているため、「夢を見る」ということをさらに深掘りして考え、パレードに反映しています。
それは一体どういうことでしょうか。ディズニーの作品に出てくるキーワードとして、「信じれば夢がかなう」というものがあります。人間は夢を信じ、夢を思い描くことによって、その夢に向かって進めることができ、そして夢がかなう——人間は夢がかなうことで、心が自由になり、夢がかなった人たちの“経験”が重なります。かなった夢により、冒険ができたり、ロマンチックな出会いがあったり、楽しい場所に行けるわけです。
夢を見ることが、心の解放、そして自由につながる——そんなところから、このパレード作りが出発しています。
ミッキーを案内人に——パレードは「夢の船」から始まり、永遠に続く夢の世界を表現
最初のフロートはミッキーとプルートが乗っているもの。一番大事なフロートである最初の船は夢の案内人であるミッキーが、ゲストに夢を紹介する役割を担っています。映画「ファンタジア」をモチーフにしている部分が多いのですが、フロート後方、帽子の中からたくさんのリボンで飛び出しているデザインになっています。このリボンこそが「夢」を象徴しているもので、ミッキーが思い描いたイマジネーションが世界へあふれている姿を表現したデザインになっています。
夢が解き放された結果、さまざまな夢の世界がパレードとして繰り広げられていく——そんなイメージが具現化したのが、このドリーミング・アップ!です。

ドリーミング・アップ! 先頭のフロート
リボンは夢の象徴であるため、パレード全体を通して必ずモチーフが使われています。夢が解き放たれ、浮遊、飛翔していく様子を表現し、フィナーレは永遠に続く夢の世界を表現しています。これからも続くという思いを込め、レインボーのリボンがどこまでも続いていくデザインコンセプトにしています。それらは細部までこだわった芸術的なフロート、そして本物志向のコスチュームにこだわっています。
また、各ユニットの前に「ほうき」が登場します。これは魔法のほうきで、当初のコンセプトが「ミッキーが魔法のほうきで描いた夢」であることに関連しています。帽子からミッキーの描いた夢が解き放たれているというイメージがあり、「夢を象徴するなにかが帽子からでてくる」というアイデアが登場、それこそが上記の「リボン」になったとのことでした。
こだわったのは“浮遊感”
夢が飛翔するイメージで、こだわった点はリボンがたなびく“浮遊感”だと述べます。フロートが地面どっしりではなく、軽やかに浮かぶデザインになっており、かつフロートはどこかしら空間が抜けている部分が多く、単なる四角い物体にならないように工夫しています。また、フロートがシーソー状に動くなどチャレンジングな形状としているのも特徴。これを実現するには、アートに携わるメンバーとテクニカルなメンバーによる幾たびもの話し合いが必要でした。
特にプリンセスフロートに関しては、ゴージャス感を表現するためにステンドグラスが使われています。このデザインは、お城の聖堂にあるステンドグラスを通して日の光が差し、その光の下をプリンセスが入ってくる姿をイメージしています。
プリンセスたちが乗っている部分は聖堂の大きなシャンデリアをイメージしており、その釣られている各プラットフォームにプリンセスが乗っていたとしたらどんなにきれいだろうか——という発想から作られています。シャンデリア関連部分にもシンデレラの靴など、各プリンセスのモチーフ、そしてジュエリーがふんだんに埋め込まれており、見るだけでも楽しいフロートです。

ドリーミング・アップ! プリンセスフロートは圧巻
なんといっても今回のフロートの見どころは、メリー・ポピンズ、ピーターパンのフロートにおけるフライング。フィナーレをピーターパンとウェンディが飛ぶ姿は、一目見たら納得してくれるのではないかとのコメントでした。「これはディズニーマジックそのもの。是非やりたいと思い、米ディズニーと一緒に作り上げました」(有賀氏)。
ちなみに今回初めてパレードに登場した「ベイマックス」。ケアロボットとしてのベイマックスと、赤いアーマーを着たベイマックスv2.0のどちらを出すかは悩んだとのことでしたが、「飛ぶキャラクターを集めたかった、あとは赤のインパクトを考えて」ということから、いまのようなスタイルになったとコメントしています。2020年にオープンする新アトラクション(参考:「美女と野獣“魔法のものがたり”」「ベイマックスのハッピーライド」2020年春に登場——東京ディズニーランド新アトラクション名称を発表)との関連があるのかと思っていましたが、特には関連性はないとのこと。
1枚プリントでは重厚感は出ない——コスチュームも“リボン”モチーフ
ダンサーたちが着用するコスチュームにも力が入っています。1枚プリントのシャツではなく、何種類ものレイヤーを何枚も重ねて重厚感を表現し、見応えのあるコスチュームが作られました。
プリンセスに関しても、今回のパレードにあわせて特別なデザインのドレスを作成しています。きらびやかで美しく、フロート、コスチュームともに“本物”を追求したとのことです。

ダンサーのコスチュームにも注目
また、音楽に関してもそれぞれのユニットを象徴し、世界観を作るのに大きな役割を持っています。ちなみに35周年記念ソング「Brand New Day」を使用する選択肢もあったとのことですが、そうしなかった理由としては、35周年以降も開催することを念頭に「このパレードのために生まれた、ぴったりとした曲を使いたかった」とのことでした。
そして天候。今回のパレードに限らず、風が強い場合に演出をどう変更するかなど、雨、風の影響は常に考えながら開発しているとのこと。安全をクリアしていることが最重要で、テクニカル部門と協業しながら作っているそうです。
作り手として「どこまでバックグラウンドストーリーを知るべき」と考えています?
最後に、私から有賀氏にこんなことを聞いてみました——「“作り手”としては、いま説明していただいたコンセプトや構造をどこまで知って、見てほしいと思っていますか」と。
すると、有賀氏は「できれば、パレードを見る人にはいろいろなことを“想像”してほしい」という答えが真っ先に返ってきたのです。作り手としてはこれ以上ない深い考えをもって、パレードを演出しているのが話を聞いて伝わってきました。しかし、それ以上に「見る人の想像力」というのが重要だと。
これ、本当に重要だと思いました。
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