そんな思考実験をしてみたいと思います。
“A Suitcase and a Dream”という曲があります。
この曲は、ウォルト・ディズニーが数十ドルの現金とちょっとだけの荷物、そして夢を抱いてハリウッドにやってきた、そのことを歌った素晴らしいディズニーミュージックです。ここで言うスーツケースは、ウォルト・ディズニー、そしてその後に生まれる(出会う)ミッキーマウスとともに、東京ディズニーシーのエントランスに飾られています。いま聞けるパーク音楽の中で、ウォルトとその夢の関係性を表す一番好きな曲です。
Photo by mtakeshidpostjp
私にとって、日本における「ディズニー」はファンタジーの代名詞というイメージがつきまとっているという印象が強くありまして、その結果「夢は必ずかなう」という言葉が東京ディズニーリゾート内でもかなり多用されていると思っています。これが日本におけるある種のディズニーアレルギーを引き起こす要因にもなっていて、そんな無責任なことを言うディズニーはいけ好かないという印象を与えています。
しかし、アメリカの本家ディズニーがかもし出す、ディズニーにおける「夢」の定義はその印象とは異なっています。ほとんどのショーや映画、作品で「夢」を題材にしつつも、その夢をつかむには努力が必要であり、努力なしに夢をつかめるという表現はほとんどないことが分かるでしょう。多分、アメリカで表現されるディズニーのDreamは、夢ではなく「目標」なのではないかなー、とうっすら考えるようになりました。この辺は、舞浜狂さんとこの下記の記事でもディズニーの「夢」に対する考察があるのでぜひ。
ディズニーの一員となる「夢」
さて、実は個人Twitterアカウントに「ディズニーのイマジニアになるためにはどうしたらいいのでしょうか」という質問が来ました。そこに対して、私なりに考えてみます。
そもそもイマジニアとは何でしょうか。いえ、「ディズニーの造語で、イマジネーションとエンジニアを組み合わせた言葉です!」ということを聞きたいのではありません。もはやその意味での定義は誰もが聞いたことがあるはずです。その前提で、イマジニアとは何でしょうか。ディズニーはなぜその用語を作り、イマジニアという表現をしているのでしょうか。
私は、イマジニアが狭義の意味――アトラクションを作り、パークでのショーの設計、演出をする、パーク自体を作る――だけであるとは決して思えません。
そのヒントは、前回のD23 Expo Japan 2013にあった気がします。該当部分を引用します。
今回特に心に残った、イマジニアのブルース・ヴォーン氏(Bruce Vaughn)の言葉が身にしみました。——「笑顔は幸せを生む。私たちはゲストを幸せにしたい。なぜなら幸せな人だけが、世界を明るくできるから」。
イマジニアは、世界を変えようとしています。それも、明るい方向へ。そういう意志を持って、テーマパークや映画をはじめ、ディズニーが持てるリソースを使い、作り出しています。それを商業として進めている、数少ない企業の一つがディズニーです。テーマパークにおけるイマジニアの成果は表に見える極々一部のみだけであり、彼らは「技術を用いて真剣に魔法を現実のものにし、それを元に世界を変える」という使命を持っているのではと思っています。
なので、もしパークの一部分だけをみて、このショーは自分ならこうするだとか、こういうアトラクションを作りたいというだけでイマジニアを目指すのであれば、厳しいですがそれは近視眼的だと評価します。それは単に「パークが好き」なだけですから。
もし、自分が高校生で、イマジニアを目指すなら
ここから思考実験。いまの知識を持ったまま高校生になり、イマジニアを目指すと決めたなら、私はこう戦略を立てます。
英語を勉強する
ディズニーはアメリカの企業ですので、英語がしゃべれることは必須。ここに異論はないでしょう。
日本語/日本を勉強する
日本人がその中に入っていくには、自分にしかできないことがなければいけません。その一つはやはり「日本」。日本文化は世界から見たら大変特殊で、興味深いものです。その日本文化をありとあらゆるところに応用できるよう、まずは日本を学ぶ必要があるでしょう。
得意分野を持つ
そして、何か一つ他人に負けない分野を持つこと。それがディズニーに全く関係なくても問題はありません。
例えば、ディズニーの研究機関「Disney Research」。ここでは一見、ディズニーに無関係のような研究を続けています。しかしその成果は、いつか確実に「ディズニー」になっていきます。この研究成果については以前寄稿した記事がありますので、ぜひそちらも参考にしてください。
ありとあらゆるものに興味を持つ
ディズニーとは「文化」だと思っています。これはディズニー学が存在するというものではなく、ありとあらゆる文化を取り入れ、そのストーリーを作っていくという意味です。例えばハワイに作られた「アウラニ ディズニーリゾート&スパ」などが顕著で、アウラニは現地に伝わるストーリーを研究し、その文化を最大限に尊重した上で、ディズニーがそのストーリーをあらゆる人に伝えるという仕組みでできています。これを作り出したのは著名なイマジニアの一人、ジョー・ロード氏で、氏の作品はどれも文化を研究し、それをいかに伝えるかということに注力しているのが分かります。イマジニアというと単に技術論を注目しがちですが、技術は方法でしかなく、目的はやはり「世界を変えたい」というところから。そのため、「興味」が一番の原動力になります。
ありとあらゆる分野の本を読む
上記にそった内容で。先人が蓄えてきた知識や文化は、本という形で後世に伝えられています。そのため、しっかり本を読み、知識をつけていくことが得意でなくてはなりません。
これはディズニー関連本のことを指しているのではなく、ありとあらゆる分野で同じことができるようになるべし、ということです。ただし、ディズニー関連本については一応まとめた記事もあるのでこちらも。これは趣味として…レベルで。

ディズニーのイマジニアになりたいのならば
……と、ここまで読んでお分かりかと思いますが、おそらくディズニーのイマジニアになるためには、「なにかのスペシャリストになるべし」としかいいようがないのです。スペシャリストになるためにはあらゆることに興味を持ちつつ、得意分野を持つ……と。
「イマジニアになりたい」は正直難しい質問で、「ある分野のスペシャリストを目指していたら、いつの間にかイマジニアになっていた」というのが正攻法でしょう。その得意分野が、現時点でテーマパークに関係することなのか、ディズニーっぽいことなのかは全く関係ありません。実際に日本の大学院研究室に対し、上記Disney Researchのメンバーがスカウトに回っていたという話を聞いたことがありますし。
とはいえ、「アピール」は必要です。専門分野を深掘りしつつ「ディズニーのイマジニアになりたい」という「夢」は忘れないこと。そしてそれを周囲にもアピールすること。それが、唯一自分の範囲でできることでしょう。例えばビッグ・サンダー・マウンテンを作り出した著名なイマジニア、トニー・バクスター氏はもともとアイスクリームを売るキャストでしたが、ある日、ビー玉が転がる自作のおもちゃをディズニーのイマジニアに見せたことから、この世界に入っていくことになりました。
冒頭に挙げた「A Suitcase and a Dream」の歌詞を一部引用します。
It don’t matter if you’re rich or broke,
it don’t matter if you’ve given up hope.
All you need is a little drive to make your dreams begin to come alive.Everybody’s got their ideas and me I’ve got mine too.
So I took out my suitcase and packed up my dream
and now its time to follow through.
夢を現実にするために必要なのは努力と、その夢をほんのちょっと駆り立てること。そうすれば、あとはその夢に付いていくだけです。その夢=目標があれば、努力も楽しいのではないでしょうか。
夢=目標がある時点で、私は素晴らしいと思います。その夢をスーツケースに詰め、これからの冒険を楽しんでください。
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