「ディズニーランドは伝統を大事にすべし」という空気に対するイマジニアの回答(2015年旅行記)

ディズニーランド60周年「Diamond Celebration」で生まれ変わったアトラクションたちから感じたことを。

以前ほんのちょっとだけ触れましたが、2014年6月に参加した、ウォルト・ディズニー・ワールドの4パークを全て回るガイドツアー「Backstage Magic」で面白いことをききました。いわく、「ディズニーランドとウォルト・ディズニー・ワールドの違いは“伝統”だ」と。もちろん、ディズニーランドのほうが“伝統”を担当するパークです。

ディズニーランドはオープンして60周年。これだけ長く運営していると、ゲストが望むものもマニア化してきます。そのため、いつしかスクラップ&ビルドすら難しくなりました。長く存在すればするほど、ファンが付いているわけで、「伝統を壊すわけにはいかない」と。実際、超大規模な投資という意味で最新のアトラクションが「Indiana Jones Adventure」(1995年3月)であることからも、伝統、つまり今あるアトラクションを壊さずに展開しなければならないということが分かるかと思います。ちなみにウォルト・ディズニー・ワールドでは、普通の家族がだいたい5年に一度やってくるという統計から、「5年の間に、大きな変化がないと再度来園しない」ため、絶え間なく新たなエンターテイメントの導入が行われています。ディズニーランドとウォルト・ディズニー・ワールドは立地条件だけでなく、与えられた役割も違う、というお話でした。(では東京ディズニーリゾートはどちらなの?という話はまた別でしたいなあ)

そして今回、ディズニーランドが60周年を迎え、それこそ「伝統」の極地とも言うべきアトラクションである「マッターホルンボブスレー」そして「ホーンテッドマンション」の2つのアトラクションがリニューアルされました(2015年7月にはピーターパンも)。

2015年5月9日「ハットボックスゴースト」がとうとう“実体化”、変化は雪男やピーターパンにも(update)

伝統をアップデートする「マッターホルンボブスレー」

ディズニーランドのアイコンといえば、お城に次ぐ「マッターホルン」でしょう。こちらも雪男のアップデートがありました。もともとの雪男と言えば、手が上下に動く程度のもの。以前の面白CMでも印象的に使われていました。

ディズニーランド・リゾートのスペシャルイベント「Frozen Fun」のCMが面白い!

ここで登場する雪男に関連して、中身がかなりパワーアップしました。

マッターホルンボブスレーは、言ってみればかなり旧式のローラーコースターライドです。これまでも雪男が登場してはいましたが、単にそこにいるレベル。このアトラクションの登場は1959年。昔はその山の中をスカイウェイが通っており、一種異様な光景を見せていました。

その後オーディオアニマトロニクスの技術が進化し、かなり見劣る姿だった雪男が「最新」になりました。それだけでなく、2つの特筆すべきポイントがあります。

まず一つ目。ライドに乗ってすぐに見ることができる、雪男が破壊したと思われるキャンプ地。ライドの破片はリニューアル前に実際に使われていたものをそのまま利用しているだけでなく、スカイウェイのカゴまで配置していると上記の動画で語られています。

さらに、ライドがリフトアップするところでは、氷の向こうに雪男が登場、足音や雄叫びが聞こえるようになり、この山になにかがいる、というのをこれでもかと表現しています。動画で見ると一目瞭然ですが、実際にライドに乗ったときは正直ほとんど視認できず、音だけが鳴り響いていました。それがなかなかの雰囲気をかもし出し、これまであったのほほんとした雰囲気はかなり変わりましたね。

荒らされたキャンプ地はもともと水晶があったようで、昔ながらのファンからは改悪だという声もありました。が、個人的にはきれいなアップデートだなあと。

ハットボックスゴーストの追加が思わぬストーリーの「補完」に

みんな大好きホーンテッドマンションについて。場所としては屋根裏部屋から屋敷の外に行く途中に、新たなゴーストが登場しています。

きっとそっと追加されているだけなんだろうなあ、と思ったのですが、これがちょっとびっくりするようなストーリーが追加されています(正確には「追加されていると思われます」)。上記動画のハットボックスゴーストのオーディオアニマトロニクス、それはそれで最新の技術と演出で素晴らしいのですが、むしろ驚いたのはその前段階。

ここからネタばれですが、屋根裏部屋に登場する花嫁のストーリーに食い込む形で、印象的に流れている結婚行進曲を演奏しているゴーストの「影」が追加されています。おそらくですが、襟のスタイルから見て新たに追加されたハットボックスゴースト、そのものでしょう。

東京のホーンテッドマンションは未アップデートですが、本家アナハイム版、そして最新仕様のフロリダ、マジック・キングダム版においては、この花嫁が結婚相手を次々に「首をはねて殺す」というストーリーが展開されてきていました。そこに、ハットボックスゴーストらしき演者がピアノを弾いている……花嫁の登場がクライマックスだったこのシーケンスのその直後にハットボックスゴーストがいることで、「花嫁はこのゴーストに取りつかれたために、結婚相手をあやめていたのでは?」と読むこともできるようになっています。

これはまさに、伝統を尊重しつつ、その延長線上にあるストーリーへとアップデートしたことに他なりません。正直、ハットボックスゴーストが「存在する」だけでもファンにとっては十分だったはず。それを影を一つ追加しただけで、ストーリーの厚みを感じさせる手腕に本当に驚きました。しかもこれ、ゲストに「想像させている」だけですからね。バックグラウンドストーリーなんて、送り手が喜々として語っても興ざめするだけ。むしろ「君たちの想像でしかないよ」というスタンスであること、それ自体が「伝統」なんじゃないかと思いました。

ということで、個人的にはこのホーンテッドマンションのアップデートに大満足です。さすが!

追記:

Disney Insiderにて連載されていた「The Horrifying History of the Haunted Mansion’s Hatbox Ghost」第4回にて、ピアノを演奏する影はやはりハットボックスゴーストであるというコメントがありました。このシリーズすごくいいので第1回から読むことをお勧めします。

LINK:The Horrifying History of the Haunted Mansion’s Hatbox Ghost, Part 4 | Disney Insider | Articles
Then you get to see his silhouette playing the piano in the attic, thanks to some ingenious new projection effects. (Seeing an animated two-dimensional shadow in a 3D physical environment is pretty unbelievable.)

バックグラウンドストーリーや伝統はどこまで重視すべきなのか

今回の体験で感じたのは、ディズニーのイマジニアが考える「伝統」とは、「何も変更しない」ことではないという意志です。大幅なアップデートもする、しかし伝統は壊さないということも可能なのだということを示していて感動しました。

自分自身はバックグラウンドストーリーはあくまでアトラクションやショー、エンターテイメントを実現させるために必要な、作り手のためのものだと思っています。なので、アトラクションが変われば(納得できる形での)ストーリーの変化は当然あると思います。個人的にはストームライダークローズの件、心情は分からなくはないのですが、そもそもバックグラウンドストーリーが公式なものでない以上、「不変であるべし」とは思いません。それよりも、新たな驚きをどうやって提供するのかということのほうが興味があります。

これも個人的な感想ですが、たった32年程度の歴史しかない東京ディズニーランドが「伝統」側に寄せられるのはもったいないと思います。今回の2つのアップデート以上に、東京も新たな技術で驚きのエンターテイメントが見られるとうれしいですね。

追記:2015年6月15日

一番最後の章ですが、たぶんこのへんに関連した書籍を読んでいるかどうかで反応が変わるんじゃないかと思います。ということで、参考になりそうな文献へのリンクを。私は「全てのものが語りかけ、歩み寄る」(Everything Walks the Talk)こそが根底にあるものだと思っています。

http://dpost.jp/2014/03/29/wp-18422/
http://dpost.jp/2014/09/11/wp-21097/

ハーバードビジネスレビューのボブ・アイガーインタビュー「ウォルト・ディズニー:伝統を守り、伝統を壊す」もお勧めします。タイトル読むだけでもボブ・アイガー氏がどう考えているかが分かるんじゃないかと。

LINK:ウォルト・ディズニー:伝統を守り、伝統を壊す 成長企業のリーダーは進化を追求し続ける | ロバート A. アイガー | 2011年12月号|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー
ウォルト・ディズニー:伝統を守り、伝統を壊す 成長企業のリーダーは進化を追求し続ける | ロバート A. アイガー | 2011年12月号|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー