映画「トゥモローランド」はどうやって“ティーカップに山を入れた”のか

ブラッド・バード監督最新作「トゥモローランド」がとうとう日本で公開されました。その感想を。

トゥモローランドを見てきた!じんわりくる作品だった…
トゥモローランドを見てきた!じんわりくる作品だった… Photo by mtakeshidpostjp

「ティーカップに山を入れるには?」という禅問答があります。私が最初に聞いたのは「Zen of Palm」というなかでで、この映画を見終わってしばらく経ったあとに思い出した問答です。ブラッド・バード監督は、この難題に対し、とてもきれいな回答を出してきたなあ、という感想でした。

“In the Future, Anything is Possible!”

東京ディズニーランド、トゥモローランドにはかつて「ビジョナリアム」というアトラクションがありました。これはディズニーランド・パリに作られたアトラクションの輸入で、360度全周のスクリーンに映し出される冒険を楽しむというスタイルのシアター型アトラクション。発明家のロボット、タイムキーパーと、タイムマシンで移動でき、九つのカメラでその時代の映像を送るナインアイが、パリの万国博覧会にいたジュール・ベルヌとH.G.ウェルズに出会い……というお話。ジュール・ベルヌといえば海底二万哩や八十日間世界一周といった作品を世に生み出したSF作家ですが、H.G.ウェルズは現実性を飛び越えた作品を作っており、このアトラクション劇中ではベルヌとちょっと対立した構造でした。いわく「タイムトラベルなど…不可能だ」。

しかしナインアイとの現代での世界旅行により、ベルヌは考え方を変えます。そして最後、ベルヌは言います――「未来に不可能はない!」 私はこのアトラクションこそ、ディズニーランドのトゥモローランドにふさわしい、明るい未来を作るための作品だったと思います。残念ながら、現在はクローズし、兄弟アトラクションだったマジック・キングダムの「The Timekeeper」も含め、消滅しました。

その後……残されたトゥモローランドは、いまでは「レトロフューチャー」な未来でしかありません。本家ディズニーランド、およびマジックキングダムのトゥモローランドはリニューアルを繰り返していますが、東京のトゥモローランドはオープン当初の装いからほとんど変化が無い状態。ファンタジーランド再開発においてはこのエリアも一変しますが、それはトゥモローランドの縮小を意味しており、本質的な変化はありません。

現在のトゥモローランドは「未来」を見せていません。しかし、それはなにもトゥモローランドに限った話ではなく、未来を見せている場所がどれだけこの世に存在しているのか、私たちはあまり気にしなくなったと思います。

かつて、未来はそこにあった

個人的に、未来を感じたのは1985年に筑波で開催された国際博覧会、通称「つくば博」でした。ここではディズニーは一切関係がなかった(それもそのはず、この時期は東京ディズニーランドの開園直後で手が回るはずがない)のですが、そこには各企業が最先端の技術を使った「未来」がありました。東芝はショウスキャンという名称のシアター映像を見せていました。これは今で言うところの60P映像(ショウスキャンはフィルム)ですし、サントリー館ではその時代にアイマックス映像を超巨大スクリーンで見せていました。富士通はそのアイマックス社の全天周スクリーン、オムニマックスが体験できましたし、芙蓉グループは驚くようなロボットショーを見せていました(この芙蓉グループのショーは、後にディズニーが丸ごと購入を検討していたという話があります→つくば科学万博クロニクル (洋泉社MOOK))。

思えばその後、「ワクワクする未来」を感じさせるようなイベントはほとんどなかったと思います。おそらく、私と同世代の人たちが、ディズニーのテーマパークにおいて「EPCOT好き」が多くいるのは、そんな「ワクワクする未来」を再び見せてくれているからなんだと思います。ウォルト・ディズニーは人生の最後に、テーマパークを超えた「未来の生活」の姿を追い求めました。ウォルト・ディズニーというと日本においては一般的に「ファンタジー」をイメージするかと思いますが、未来を本格的に、かつ楽観的に考えていた人物という側面も忘れてはなりません。

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ウォルト・ディズニーが作り出してきた「空気」

ちょっと視点を変えて、ウォルト・ディズニーの話を。

ウォルト・ディズニーという人は、かなり幅広い「夢」を、努力によって実現してきました。アリス・コメディー、オズワルド、ミッキーマウスの制作から、トーキー映画、カラーアニメーション、マルチプレーンカメラといったチャレンジ、そして長編映画を作り、さらに逐次アップデートできる映画作品としての「テーマパーク」を作り出してきました。ウォルトの作り出した世界、仕組み、思想は挙げれば数限りなく、もはやそれは「山」のようなもの。「ウォルト・ディズニー」は大きな山脈であり、研究対象としてその山を征服しようとするものが多くあらわれています。人によっては、整備された山道を通るものもいますし、麓にひろがるものを丹念に拾うもの、そして前人未踏のルートで攻めるもの……たくさんのルートや考え方が生まれました。パークの裏技さがしだってその一つでしょう。その全てが、ウォルトを表すものになっていると思います。

「ウォルト」好きが他人にウォルトを解説するのには大変な苦労が伴います。長年ウォッチしている私も、ウォルト・ディズニーや、「ディズニーっぽさ」をどうやって人に伝えるかはとても苦労します。これは調べるほど、長年ウォッチすればするほど、不可能ではないか……と思うようになるほど。ウォルトだけでなく、ディズニーのアニメーター、イマジニアたちが積み上げてきたものは新たな山脈を作り、今も大きくなっているからです。これは、いまウォルト・ディズニー・カンパニーを作り、維持している者たちが、ウォルト・ディズニーという「思想」をもって働いているからに他ならないからでしょう。その一端は、2013年10月に開催された「D23 Expo Japan」において、イマジニアのブルース・ヴォーン氏が発したこの一言に凝縮されています。

最初の問題に戻りましょう。「ティーカップに山を入れるには?」ここでいう山とは、ウォルト・ディズニーが作り出してきたもの、その全体を意味しています。それを目の前にあるちいさなティーカップに入れるには、一体どうしたらいいでしょうか。

禅問答自体の回答は「山の中からいくつかのダイヤモンドを掘り出し、それを入れればいい」というもの。それを、ブラッド・バード監督は映画「トゥモローランド」でやってのけたと感じました。いったいどんなダイヤモンドだったのか――それは、映画を見た皆さんが感じたものが正解だと思います。この映画は寝技のように効いてくる、ふしぎなものでした。

この映画のメッセージの受け取り方は一つでしょうが、皆さん自身の答えは変わってくるはず。とてもいい映画です。ぜひ、お見逃しのないように。

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