ロペス夫妻は次の世代のアシュマン/メンケンになりうるか これまでの軌跡をまとめてみた

 結論から言うとその通りです。もうなってます。

 日本でもディズニーファンクラスタのみならず大きなムーブメントとなっている「アナと雪の女王」(Frozen)。その原動力となっているのは、やはり劇中大変大きなインパクトを残す「Let It Go」だと思います。ディズニーアニメーションの現時点最高の絵作りと、イディナ・メンゼルの驚異の歌声、そして松たか子による違和感のない日本語版など、この1曲でこの映画の方向が全て決まるほど。アカデミー主題歌賞も獲得し、映画館は連日満員……。

 この立役者ともいうべきソングメーカーが、作曲家ロバート・ロペスと作詞家クリステン・アンダーソン・ロペスの夫妻です。このお二方はいきなりこのLet It Goで有名になったわけではなく、これまでもディズニー内外で多くの成功を収めています。この記事ではロペス夫妻のディズニー外でのおすすめ曲などを紹介しましょう。

Avenue Q

 ロペス夫妻が注目されたのは、オフブロードウェイで一躍有名になったマペットミュージカル「Avenue Q」の成功によるものが大きいです。これはアベニューA、Bと下に行くに従い、徐々に家賃や物価が安くなる(もちろん治安は悪くなる)というニューヨークのお話で、下も下、「Q」エリアに住むマペットと人間の世界のお話です(実在はしません)。

 アベニューQは2004年にトニー賞を受賞しています。2010年に一度日本でもツアーメンバーによる公演が行われており、いくつか動画が残っています。

アベニューQ オフィシャル映像集

 これを見ていただくとおわかりのように、この作品、セサミストリートやマペッツをパロディしたキャラクターが登場しています。このアベニューQのアパートにルームシェアで住んでいるロッドとニッキーは思いっきりアーニーとバート(しかもロッドはゲイという設定)ですし、インターネット中毒のトレッキーはクッキーモンスター。それだけでもなかなか面白い作品。

 さらに、このアベニューQでは音楽にもオマージュをささげています。作詞、作曲にはロバート・ロペスが参加しているのですが、オープニングを飾る、大学で英語の修士を取ったからってそれが何の役に立つんだい?と嘆く「What Do You Do with a B.A. in English?」はメロディラインがカーミットの「Rainbow Connection」を思い出させるものになっています。ロペス作品はこのように、過去の偉大な曲にオマージュをささげつつ、自分の曲を作れる作家だと私は考えています(それがパクリとは言えないレベルにまで昇華している、の意味)。

 ちなみにこのアベニューQ、上記の動画にもあるように、とても子どもには見せられないような、現実的な歌がたくさん入っています。「もしも君がゲイでも」「みんな少しは差別主義者」「自分ってサイテー」……そのなかでキラリと光る「紙一重しか無い」(There’s a Fine, Fine Line)はアベニューQで一番好きな曲。私はこの曲でロペス夫妻の楽曲を気に入りました。

もしも君がゲイでも/紙一重しか無い/アベニューQのテーマ(来日記者会見)

 そしてアベニューQスタッフのオマージュがこちら。Let It Goを歌っているのが、劇中ゲイ疑惑をかけられ、普段はそれを隠しているロッドというのが強烈!

Congratulations Bobby & Kristen Lopez from AVENUE Q!
Avenue Q
Avenue Q

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The Book of Mormon

 ザ・ブック・オブ・モルモンは現在もブロードウェイで大人気のミュージカル。サウス・パークのトレイ・パーカー&マット・ストーンとロバート・ロペスが作った、いま一番注目されている作品です。この作品はモルモン教という、アメリカ人もちょっと引く題材と取りあげながら、開幕から全編大爆笑の明るく、希望のある内容のミュージカルでした。ロバート・ロペスはこの作品でトニー賞のみならず、グラミー賞も受賞しています。

 簡単なあらすじを紹介しておきましょう。敬虔なモルモン教の信徒は、ある時期になると2人ペアになって世界へ布教しに行くというミッションがあります。高い成績を残すエリートのエルダー(長老)・プライスは、夢見たとある場所に行くことを心から望んで神に祈りますが、ペアとなるのは落ちこぼれでピザデブなエルダー・カニンガム。さらに宣告された場所はウガンダだった……エイズと女性器切除がまん延するウガンダに、モルモン教は浸透するのか?というもの。

 この作品でも注目すべきは音楽。モルモン教徒の若者がびしっとしたヘアスタイルでアベニューQ以上にひどい歌詞を浪々と歌い上げるギャップが非常にうけています。特にオープニングタイトル「Hello」はアナと雪の女王のとあるシーンを思い出させる演出です。ちなみにエルダー・カニンガムはアナと雪の女王におけるオラフを演じた、ジョシュ・ギャッドを一躍有名にさせることになる役。

2012 Tony Awards – Book of Mormon Musical Opening Number – Hello

 また、この作品は意外なまでに「ディズニー」が関係してきます。ウガンダの風景と音楽はまんま舞台版「ライオン・キング」ですし、Helloに続く曲Two by Twoでは、エリート宣教師のエルダー・プライスがどこに行きたいのかを歌い上げるのですが……まあ、みてください。2分20秒のとこ。大爆笑の大共感間違いなしです。オレも行きたいわ。

 そして最大の注目曲は、ウガンダの少女、ナバルンギが幼いころに母親に教えてもらった桃源郷とは、もしかしたらそこのことなのでは、と歌う「Sal Tlay Ka Siti」。もちろんこれはユタ州、モルモン教の総本山のソルトレイクシティのことなので、真剣なバラードなのに大爆笑が起きるという構成の曲。

2012 NHSMTA ERICA DURHAM SOLO

 これ、聞いたときにすっごい感動した(演じたロンドンキャストのAlexia Khadimeが本当に素晴らしかった!!!)のですが、サントラを聞きまくっていたらどこかで聞いた覚えがある……そう、この曲です。

Somewhere that's Green

 これは映画「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」で、ヒロイン、オードリーが夢見る暮らしを歌い上げる「Somewhere that’s Green」。この曲を初めて聞いた人なら、曲調やその最後のカメラワークに、もしかしたらさらに何か、これまで見たことのあるなじみの曲に行き着くでしょう。そう、この曲こそがリトル・マーメイドの「Part of Your World」の元になった曲です。リトル・ショップ・オブ・ホラーズはアラン・メンケンとハワード・アシュマンがディズニーに入る前に作ったミュージカル作品で、ディズニーのあの名曲はこのリトル・ショップ・オブ・ホラーズが源流になっていたりするのです。これら3曲はともに、ここではないどこか理想の場所をヒロインたちが夢み、そこに行くことを望むという構成になっています。

 ロバート・ロペスが現代に再度、この力強い「I Wish」ソングを作り出したのはとてもうれしいこと。全体的にロバート・ロペス作品はミュージカルの基本である、主人公が強く望むことを歌にする「I Wish」ソングが心に残るものが多いように思えます。本作主人公のエルダー・プライスのI Wishソング(オーラーンドーーーーー)にしても。

 最後にこの作品の中心となる曲、エルダー・プライスのI believeのトニー賞授賞式バージョンを。感動的なシーンですがこれも本当にひどいこと歌ってます。

I Believe – The Book of Mormon – Andrew Rannells – Tony Awards 2011
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Finding nemo the Musical

 ここからはディズニー関連作品。ディズニーとロバート・ロペスの代表作品が、フロリダ、ウォルト・ディズニー・ワールド、ディズニー・アニマルキングダムで現在も上演されているショー「Finding nemo the Musical」です。

 ファインディング・ニモといえばピクサーの代表的な作品ですが、もともとはミュージカル作品ではありません(ピクサーはミュージカルが嫌いとまでいわれています)。その作品をミュージカル化した上で、30分程度にまとめるという意欲的なステージがこのFinding nemo the Musicalです。

Meet the Puppeteers at 'Finding Nemo – The Musical' | Walt Disney World

 この作品では、メインタイトルソング「In the Big Blue World」(これはEpcotでも利用されている)や、ドリーが劇中口ずさむ曲を元にした「Just Keep Swimming」、そしてクラッシュをレゲエシンガーとして見立てた大変印象的な「Go With the Flow」など、心に残る音楽がおおいのが特徴。

 そして注目すべきは、下記のインタビュー動画。

 この中で、ロペス夫妻はオープニングを「アラン・メンケンスタイルの導入」とコメントしています。確かにこのプロローグはミュージカル版独自のスコアで、壮大な雰囲気を作り出していまして、こういうコメントがあるとなるほどなー、とおもいます。さらに夫妻はEpcotで何度も乗ったアトラクションで、音楽がとても印象に残ってずっと歌っていた、「イーマージネーショーン」って、まるでスモールワールドみたいに、と言っており、このミュージカルもそうなるといいというコメントをしています。もちろんそのアトラクションとは「Journey into Imagination」であり、イッツ・ア・スモールワールドとともにシャーマン兄弟が曲を作っています。なかなかしびれるエピソードでした。

くまのプーさん(2011年版)

 これはさらに詳しい人におまかせします。くまのプーさんでは、ロペス夫妻はこれまでのプー映画にオマージュをささげつつ、ロペスカラーを存分に出した内容になっており、注目に値します。初めてアナと雪の女王の「In Summer」などを見たとき、これプーのはちみつシーンじゃないか!と思いました。

そして「アナと雪の女王」

 このような流れでアナと雪の女王を見ると、今作におけるロペス楽曲の異質さが見えてくるかもしれません。ロペス夫妻のカラーをわりとおさえつつ、ディズニー楽曲を作った、というのが個人的な感想。ロペス夫妻作品ぽさが一番出ているのはおそらく「Fixer Upper」だと思うのですが、この曲は作品内で異質な光を放ちつつも、どの楽曲よりもこの作品の本質を突いている、というのがポイントかもしれません。ここでいう本作の本質については下記のクソ長い感想記事をどうぞ。

FROZEN | Official Soundtrack Album Sampler | Official Disney UK

 全体として、ロペス夫妻の楽曲は過去の作品にオマージュをささげつつ、各作品できっちりと異なる作風をだし、かつ「ロペス作品」という芯をもっているという……。そう、この特徴って、これまではシャーマン兄弟、アシュマン&メンケン、マイケル・ジアッキーノなどディズニー/ピクサーのミュージックメーカーが持っていたものなのですね。ロペス夫妻はいま、「頭を強く打ったことで日常がミュージカル化してしまった」というとても面白い設定のミュージカル作品「Bob the Musical」の製作をしているようですので、こちらも楽しみにしたいと思います。

 その前に、日本にアベニューQやザ・ブック・オブ・モルモンが来日してくれないかなあ。いまならアナ雪ヒットで人来るよ!必ず行くよ!