「ウォルト・ディズニーの約束」を見る前に知っておいた方がいいと思う5つのこと

「アナと雪の女王」はみんな黙っていても見に行くと思うけど、この作品については見逃したら本当に、本当にもったいないと思うので、できる限りテキストの形に残したいと思って。

「Saving Mr. Banks」(邦題:ウォルト・ディズニーの約束)は事前知識があればあるほど深く刺さる映画です。何も知らない状態よりは知っている状態の方が面白く映画を鑑賞できると思いますので、なるべくこの記事だけで完結するように書いてみます。なお、ここで取りあげているのは主にウォルト・ディズニー側の話で、映画の主題となるパメラ・トラヴァース側のストーリーにはほとんど関係ない部分です。

Saving Mr Banks – Trailer – Official Disney | HD

1.映画版「メリー・ポピンズ」が生まれたきっかけ

劇中でもちょっとだけ触れられますが、映画メリー・ポピンズの原作「メアリー・ポピンズ」をウォルトが知ったのは、娘のダイアンが教えてくれたから。夢中になっているダイアンに何の本を読んでるんだい?とウォルトが聞いたことからこの作品を知り、映画化しようと思ったと言われています。そのかなりあとのお話が今回の映画になります。

娘のダイアンとは、ウォルト・ディズニー・ファミリー・ミュージアムを運営するウォルト・ディズニー・ファミリー・ファウンデーションの代表で、先日2013年11月19日に亡くなられたダイアン・ディズニー・ミラーさんのことです。彼女がいなかったら、メリー・ポピンズ、そしてこのウォルト・ディズニーの約束はありませんでした。ダイアンさんにこの映画見せたかったなあ。

2.可能な限り映画「メリー・ポピンズ」は“聴いて”おいて

ウォルト・ディズニーの約束は映画「メリー・ポピンズ」ができるまでのお話ですので、映画の作り自体はメリー・ポピンズを見ている前提だったりします。とはいえ……劇中ではまだメリー・ポピンズが完成していませんので、知らなければ分からないというより、知っているとより楽しいというレベル。セリフやシーンの引用量が半端ないです。そのため、ウォルト・ディズニーの約束を見たあとにメリー・ポピンズを見るのもありです。

ただし、音楽についてはあらかじめポイントを押さえておいた方がいいでしょう。大丈夫、映画を見ていなくてもきっと聞いたことがある曲ばかりです。ひとまず、3曲だけ紹介しましょう。

まずは「Spoonful of Sugar」(お砂糖ひとさじで)。メリー・ポピンズがバンクス家に到着した、最初の歌です。苦い薬も1さじの砂糖があれば飲める、見方を変えれば生き方も変わるという、メリー・ポピンズの主題ともなる重要な曲。

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次は「Supercalifragilisticexpialidocious」。メリー・ポピンズといえばこの曲ですね。東京ディズニーランドでも聴くことができたはず。ここは実写とアニメーションを合成した、大変挑戦的なシーンでした。

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最後は「Let’s Go Fly a Kite」(凧をあげよう)。これはメリー・ポピンズの最も重要なシーンです。メリー・ポピンズの型破りな行動を煙たがっていた父親のジョージ・バンクス氏が、務めている銀行にてトラブル。いろいろあってその後メリー・ポピンズの考え方に共感し、壊れていた凧を直し、家族みんなで凧あげに行くというシーンです。これは東京ディズニーランドのエントランスでよくかかっているので、聴いたことがあるという方も多いはず。

Let's Go Fly A Kite – Mary Poppins (David Tomlinson)

このほかにも、メリー・ポピンズには「Step in Time」(踊ろう、調子よく)や「Chim Chim Cher-ee」(チム・チム・チェリー)「Jolly Holiday」(楽しい休日)など、楽しい曲がいっぱいあります。できれば、全編おさらいしておくといいですよ(このタイミングでBlu-rayもでますし)。もし久しぶりに再見するという方がいたら、ぜひメリー・ポピンズが「何を変えに来たのか」「何が救われたのか」を注目して見ていただけるといいかと思います。

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3.メリー・ポピンズの曲を作ったひとは?

ディズニー黄金時代の曲を作った、リチャード・シャーマンとロバート・シャーマンの兄弟です。この名前を知らなくても「イッツ・ア・スモールワールド」や「くまのプーさん」「魅惑のチキルーム」の曲を知らない人はいないでしょう。ジャングル・ブック、おしゃれキャット、そして東京ディズニーランドのオリジナルアトラクションだった「ミート・ザ・ワールド」もシャーマン兄弟の作品でした。

お兄さんのロバート・シャーマンは残念ながら2012年3月5日にロンドンにてお亡くなりになりましたが、弟リチャード・シャーマンは今も健在。D23 Expo 2013では音楽家アラン・メンケンとともにジョイントコンサートを行い、ファンとともに大合唱するという姿を見せてくれました。

ウォルト・ディズニーの約束ではこのシャーマン兄弟が登場するだけでなく、リチャード・シャーマン本人がコンサルタントとして参加。リチャード・シャーマンを演じたジェイソン・シュワルツマンに熱心な指導を行ったといいます。その様子は特別映像として公開されています(ただしネタバレ)。

Saving Mr Banks – "The Music"

日本語版がありました。
http://www.youtube.com/watch?v=WMa1-1g3mfY

本当に素晴らしいステージでした。
本当に素晴らしいステージでした。 Photo by mtakeshidpostjp

4.ウォルトがこよなく愛した「2ペンスを鳩に」

そしてメリー・ポピンズ内で使われた、シャーマン兄弟作品で最も重要な曲が、「Feed the Birds」(2ペンスを鳩に)です。あえてD23 Expo 2013での動画を。

18. Feed the Birds – Richard Sherman & Alan Menken D23 Expo Disney Songbook Concert

司会が曲名を言った瞬間、会場から歓声が沸いたのが分かりますでしょうか。この曲はメリー・ポピンズの曲であるだけでなく、ディズニーを取りまく歴史の中で大変重要な位置にあります。この曲は、ウォルト・ディズニーが一番好きだった曲だからです。

ウォルトはこの曲を聴いて、「ブラームスの子守歌よりもずっといい」といったそうです(劇中では子守歌として歌われる)。映画が公開されたあとも毎週金曜日になると、個人的にシャーマン兄弟をオフィスに呼んで、この曲を歌わせたとのこと。ウォルト・ディズニー生誕100周年のセレモニーのとき、リチャード・シャーマンがパートナーズ像の前でこのエピソードを話し「今日はもう一度、君のためだけに歌うよ」とこの曲を歌いました。それを知っているからこそ、この曲が披露されたとき、鳴り止まない拍手とスタンディング・オベイションが起きたわけです。

ウォルト・ディズニーの約束でも、この曲は当然出てきます。このエピソードを知っていれば、そのシーンの重要性が分かるんじゃないかと思います(映画自体のストーリーにはほとんど関係がないけれど)。

5.余談:ウォルト・ディズニーと“ウォルト・ディズニー”(本筋ではない部分の軽いネタバレ)

「カリブの海賊」というアトラクションがあります。このアトラクション、当初は海賊の生活をリアルに再現するということを考えていましたが、リサーチで分かった海賊の死因は「性病」だったりと、イメージの中の海賊と実際がかなり違っていたと言います。そのため、みんなの中にある「理想の海賊像」を忠実に再現しようとしました。これが、あのアトラクションになったわけです。

これに似た話。個人的に一番好きなウォルトのエピソードに、彼が話したこんなことがあります。

『ディズニー』というのは、ある抽象的なもの、人々の心の中にあるイメージを指している。ディズニーという言葉を聞けば、ある種のエンターテイメント、独特のファミリー・イメージが浮かんでくる。だから、僕自身はもはやディズニーじゃない。昔はディズニーだったけど。

このエピソードは、彼が彼の名前「ウォルト・ディズニー」を直感的にブランド化していたことを示しています。1人の人間としてのウォルト・ディズニーを捨て、みんなが思う「理想の“ウォルト・ディズニー”」を作り、それを演じていたわけです(これが、ウォルト亡きいまも“ディズニーっぽい”が伝承される理由だと思います。同業界の天才たち、たとえば宮崎駿や手塚治虫、チャールズ・シュルツと決定的に異なる点はここだと思ってます)。

例えばよくウォルトの名言と言われる「すべては1匹のネズミからはじまった」ですとか、「ディズニーランドは永遠に完成しない」なんていう言葉はすべて(おそらく)スクリプトライターが用意した言葉であり、彼本人からスッとでてきた言葉ではありません。それを踏まえると、上記の言葉というのは非常に重いものなのではないかと思います。(update注:この「スクリプトライター」に付いて知りたい方は下記の本をどうぞ)

マーティ・スクラー「ディズニー 夢の王国を作る」を読んだ

これがこの「ウォルト・ディズニーの約束」の最重要ポイントなのですが、この映画に登場する、トム・ハンクス演じる役というのは、ここで言う作られたイメージのほうの“ウォルト・ディズニー”です。この点が非常に素晴らしいと思っています。なぜなら、私たちが知っている——ただし、伝記やTVショーでの作られた——ウォルトがそのまま登場するからです。

例えば、上記の言葉に関連して、“ウォルト”はタバコを吸うという悪いイメージを付けたくないため、人前ではタバコを吸わなくなったというエピソードがあります。これが、そのまま映画内で登場するのです。このシーンを見て、この映画はメリー・ポピンズ誕生秘話という形を取りながら、「ウォルトファン向けの超ファンタジー映画」として成立していることに驚いた次第です(本筋にはまったく関係ないですが)。

ここの部分を見てゾッとした方とはいい酒が飲める気がします。

ということで、ここまで読んだ方なら3月21日の公開が待ち遠しくてしょうがないんじゃないかと思います。アナと雪の女王に盛り上がる中、アオいいよね的に静かに盛り上がろうじゃないですか。みんな、映画館行こうぜ!

追記:2014年3月3日

強力な補足をいただきました。ぜひこちらも!