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Gertie : 『生命を吹き込む魔法』(2)-魔法使いに会おう-

スタジオ/カンパニー(〜2020年5月)

Gertieコラム★『生命を吹き込む魔法』(2)-魔法使いに会おう- 今回は、東京のディズニーランドには、もはや新しい気分で見るものがないという上級者の方々のために、連載しているコラムに関するちょっとした情報をお届けしたいと思う。ワールドバザールのディズニーギャラリーはこの時期、ニューセンチュリー・クロックショップと同様、冷房がよく効いているところだが、すでに現在開催中の「”…すべては一匹のネズミから始まった”セレブレーション・オブ・ミッキーマウス」には、何度も訪れた方も多くいらっしゃることだろう。

 さてこのギャラリーには、今回コラムに登場したナインオールドメンのいくつかの直筆をみることができるので紹介したい。レス・クラークは、ウォルトとともに成長してきた天才的なアニメーターであった。48年間にもわたり現役でディズニーの魔法を作り出していた。ギャラリーには彼の作品が2点展示されている。一つは1937年『ミッキーの魔術師』のアニメーションドローイングである。すこし丁寧なほど輪郭を取るための円が描かれているのがわかるかもしれない。魔術師といってもこちらは手品師のほうだ。ミッキーマウスがゲストをパークで迎えるスタンダードな衣装はマジシャンのスタイルであるのを思うとなおさら感慨深い。また前回のコラムでも触れたようにレス・クラークは『魔法使いの弟子』のデザインを担当した。ギャラリーを奥へ進むと、コンセプトアートといっしょに、このレス・クラークがつくりだした1940年の『ファンタジア』におけるミッキーマウスに対面することができる。鉛筆の豊かな筆力の調整で、描かれた線が生き物のようだ。

 アニメーションの物理学者であると名付けたフランク・トーマスの分析的な動きのある作品にも会うことができる。1938年『ミッキーの巨人退治』はコルクにのって飛び出していくミッキーの瞬間が捉えられている。彼のように、運動の一つ一つを微細に分析する能力があるからこそ、このような疾走感のあるシークエンスでも、けしてドローイングが雑になることはない。目を近づけると線を幾何学的に湾曲させることで力の方向を描き出している。一瞬で終わるカットの中に、こうした緻密さが生きるからこそ魔法は効果的にアニメーションにかけられるのだ。

 ミッキーマウスクラブの曜日ごとに変わるテーマを紹介しているコーナーでは、二人のオールドメンの作品が待っている。1955年、ミッキーマウスクラブ、月曜日『音楽で楽しむ日』と火曜日『スターのゲストをお迎えする日』のアニメーションドローイングは、オリー・ジョンストンの手によるものだ。さすがに直筆でしかわからない個性的な描法が伝わってくる。キャラクターを作品からは独立した生きた存在として描いていく彼の才気は、ここで描かれたミッキーマウスにまったく違う印象をあたえている。特にまぶたに描かれる表情のある小さな線や、独特な柔らかい腹部の丸み表現など、リアルな人間のイメージさえ与えるようだ。これは好き嫌いが分かれるところだろう。

 その作品のすぐ横に目を移してみよう。アニメーター仲間たちからも信頼のあつかったジョニー・ラウンズベリーの作品が、彼の温厚の性格そのままに笑いかける。ミッキーマウスクラブ金曜日『才能ある子供たち全員集合の日』のカーボーイミッキーのアニメーションドローイングである。

 鉛筆で描かれたそれらの作品は、消しゴムですぐに消してしまうことができそうだ。しかしその危うさが、逆にシンプルな線だけで、なにもない白紙から生命を浮かび上がらせている魔法に思えてくる。これが何十年も前に書かれたものには思えない。しかし我々が映画の中で心を動かされ、パークのショーやパレードで出会ってきたキャラクターたちは、みなこうして、たった一枚の紙と鉛筆から生まれたのである。

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